最新記事

貿易

トランプのWTO批判は全くの暴論でもない

2017年3月9日(木)10時30分
デービッド・フランシス

トランプのWTO批判はそれなりに筋が通ったものだ Jonathan Ernst-REUTERS

<為替操作や紛争解決への対応策の欠如には、自由貿易擁護派からも批判の声が上がる>

トランプ米政権が、今度はWTO(世界貿易機関)の攻撃に乗り出した。

連邦議会に提出した米通商代表部(USTR)の年次報告で、トランプ政権はWTOの紛争解決プロセスを批判。アメリカの主権を侵害する規定については、無視する権利があると主張した。歴代政権よりもかなり激しいトーンだ。

だがWTOについては、自由貿易の擁護派の中にも改革の必要性を指摘する声がある。よく聞かれるのは、以下の4点だ。

■為替操作を罰するべき

WTOは不公平な貿易の実践に対して制裁を科す権限を持つが、為替操作はそうした罰則の対象としていない。

多くの貿易専門家はこれを変えるべきだと考えており、アメリカがWTOに圧力をかけるべきとも考えている。トランプ政権はWTOに対し、為替操作を違法な援助と見なし、罰則の対象とするよう強く迫ることができるだろう。

想定されている標的は中国だ。アメリカは中国を為替操作国と公式に名指ししたことはないが、為替を安い水準に維持する中国政府の介入は長年、米中貿易における争いのタネになっている。

トランプ政権のロス商務長官は上院での指名承認公聴会で、中国政府が為替市場に介入しているという認識を示した。これは同政権が今後WTOに、為替操作国に対してこれまで以上に強硬姿勢を取るよう促す兆候だと、専門家らは指摘している。

【参考記事】トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(前編)

■ダンピングを取り締まる罰則を設けよ

現在、ダンピング(不当廉売)を行った国に対して制裁を科す権限を持つのは個々の加盟国だけだ。WTOとして制裁を科すことはできない。EUや米英は、自国の鉄鋼・アルミ産業を保護している中国と他の加盟国との条件を公平にする上で、その点が障害になっていると考えている。

トランプ政権のライトハイザーUSTR代表は10年に議会の委員会で、WTOは既存の権限を駆使し、中国による国内産業の保護に対してより積極的に罰を科すべきだと語っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中