コラム

パックン流、ゲスな賄賂の撲滅法

2016年01月25日(月)15時00分

「私以外私じゃないの~」と替え歌でマイナンバーをアピールした甘利大臣だったが・・・(写真は先週のダボス会議でのセッション) Ruben Sprich-REUTERS

 政府がマイナンバー制度を用いて、国民全員の金銭的なやり取りを全て把握しようとしているのに、政治家の金銭授受は闇のままでいいのか?

 マイナンバーPRの替え歌でおなじみの甘利明大臣(経済再生担当・社会保障・税一体改革担当・内閣府特命担当)が、千葉の建設業者から口利きを依頼され、少なくとも1200万円の資金と接待を受けたと週刊文春が報じている。録音などの証拠があるとか、大臣室でとらやの羊羹と一緒に50万円の現金が入った封筒を渡したとか、業者側の主張には安いテレビドラマみたいなセンセーショナルな要素が多い。

 だが、なにより注目されたのは甘利大臣の反応だ。「記憶があいまい」を理由に記憶を確認するために一週間の猶予を求めた。大臣の記憶は頭の中でなく、どこか地方の資料室の奥底にしまってあって、それを掘り出して郵送するのに時間がかかるのかな~、と不思議に思った方も多いでしょう。僕だったら50万円の現金を渡された経験があったら、きっと子供が生まれたときや結婚した日と並ぶぐらい、鮮明な記憶になると思う。ためしに誰か、僕に50万円を渡してくれないかな。

 与党側の反応も話題になった。山東昭子参議院副議長は告発した業者を「ゲスの極み」と批判し、「まさに『両成敗』という感じで正さなければならない」と述べた。甘利大臣の替え歌に便乗したコメントとしては、芸人の僕としては評価する。でも、民主主義のファンとしては納得がいかない。もちろん贈収賄は贈る側も収める側も悪いし、どちらも厳しく罰されるべき。しかし、憲法上でも公務員の職務倫理の基準は一段と高く設定されている。「どっちもどっち」という弁解は成り立たない。

 以前、うちの子供が通う小学校の先生にアメリカお土産を渡そうとしたとき、「一応公務員なので・・・」と断られたことがある。僕には、強烈な着色料で染まっているアメリカンスナックで見返りを期待するような下心なんて、もちろんひとかけらもない。でも、防腐剤が大量に使われているから処分に困るし「そういわずに・・・」ともう一押しをしてみた。それでも、先生は「すみません。少しでも収賄行為に間違えられるようなやりとりは一切してはいけないのです。」と、きっぱり。

 この姿勢は実に大事だ。どのレベルの公務員も、自己利益ではなく、公益のために動いているんだということが国民に信頼されないと、そこに民主主義制度は成立しないのだから。

 政治と金において「見返りがあったかどうか」というところに争点が置かれることが多いが、問題はそれだけではない。実際になくても、見返りがあったかもしれないと思われてしまう時点でダメだ。そのため、アメリカの最高裁判所は贈収賄罪に関してcorruption(腐敗)の実態だけではなく、appearance of corruption(腐敗っぽく見える状態)を取り締まる司法の権利を認めている。実際にはシロであってもクロに見えてはならない。去年、角度や照明によって「白と金」にも「青と黒」にも見えるストライプのドレスが世界中で話題になったが、ドレスだから許す。しかし政治行為に目の錯覚は要らない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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