コラム

世界中で利用される、iPadを使った教育ツールの傑作:OSMO

2015年12月09日(水)15時15分

世界42ヶ国で計7500もの学校で利用されているOSMOは、まさにiPadがもたらした教育改革の1つだ。

 理系と文系、デジタルとアナログ、仮想空間と現実など、これまで二元的に扱われてきた概念の垣根が取り払われ、どちらか1つではなく両方の性質のバランスの中で問題解決のための策を見出していく。このことは、筆者が様々な機会に書き綴ってきた、これからの情報環境や社会環境の在り方だ。

 前回採り上げたSphero SPRKKの背後にあるSTEM/STEAM教育にも、こうした傾向が見てとれる。

 その流れを、幼児や初等教育の児童を対象に、iPad向けのアクセサリを使って目の当たりにしてくれるのが、スタンフォード大学とグーグルの出身者が開発したOSMOである。

 対応ソフトはすべて無償で、たとえば、Numbersアプリでは画面内に表示される虫食い算に対して、付属の数字カードからあてはまるものをiPadの前に置くと、それらが認識され、正誤の判定が行われる。


 また、Tangramアプリは、シルエット(初心者向けには、色分けされた幾何学形の輪郭の組み合わせ)で表示される動物や日常品の形を手元のピースの組み合わせで作っていくと、1つ置くごとに、正しければその部分が塗りつぶされていく。


 あるいは、Wordsアプリでは、写真をヒントに単語を当て、その綴りをアルファベットのカードで完成させるのだが、色違いのカードを使って2人または2チームの対戦ができるところが学習意欲をかき立てる(交代制ではなく、1つの単語を綴る中で、素早くカードを出せたほうにその都度ポイントが入るとので、知識とスピードが要求される)。


 さらに、Newtonアプリでは手前の紙に物を置いたり線を描くと、画面内で落下する玉を物理法則に基づいて反射させることができ、その組み合わせで的を狙って得点する。


 最もユニークなのは、Masterpiece(傑作)と名付けられたアプリで、画面内に示されるお手本(自分でiPadで撮影した顔や風景でも良い)をなぞるように、手前の紙の上で鉛筆やペンを走らせると、手描きの絵ができあがる。これまでにも、スタイラスで入力して画面内に絵を描いたり、写真を絵画風に変換するソフトはあったが、これは逆転の発想で、実際に手で絵を描く際の手助けをしてくれるわけだ。


 実物が動作している様子を見ると、まるで魔法のように感じられるが、実はハード的な仕組みは簡単で、iPadのインカメラのところに取り付ける赤いアタッチメントに鏡が付いており、本体の手前のエリアを常に撮影しながらリアルタイムでパターン認識を行っている。また、iPadの下の台は単なるスタンドであり、どちらにも複雑なメカニズムは一切組み込まれていない(ただし、iPad Pro以外のカメラ付きiPadとiPad miniに対応させるための幅調節機構はある)。

 つまり、ソフトウェア処理のみによって、ここまでの機能性を実現していることになり、高度な技術力の勝利といえる。その一方で、数字やアルファベットのカードやタングラムは、紙や樹脂製ではなく、木を使って昔ながらの玩具の感触を思い出させてくれる。こうした点も、単なるテクノロジー指向ではなく、長く使える道具としての魅力につながる特徴だ。

 OSMOは、すでに世界42ヶ国で計7500もの学校で利用されており、今後も様々な対応アプリが開発されていく予定だが、まさにiPadがもたらした教育改革の1つととらえて良いだろう。

プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー、NPO法人MOSA副会長。アップル、テクノロジー、デザイン、自転車などを中心に執筆活動を行い、商品開発のコンサルティングも手がける。近著に「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか」(現代ビジネスブック)「ICTことば辞典:250の重要キーワード」(共著・三省堂)、「東京モノ作りスペース巡り」(共著・カラーズ)。監修書に「ビジュアルシフト」(宣伝会議)。

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