コラム

若い女性の写真とAIで偽情報拡散──スパイ企業の手口「SNSハニートラップ」とは

2023年04月13日(木)13時40分

SNS上のプチ・ハニートラップ

チーム・ホルヘの活動には、「顧客」に有利な世論を形成するため、一般市民に直接アプローチすることが含まれる。

潜入取材に対してホルへ幹部は、独自に開発したボットシステムにより、3万以上のアバターをSNSに投入して発信できると認めた。

要するに、自動化されたボットをターゲットの国にばら撒き、「顧客」の利益になるような、あるいは「顧客」の政敵にダメージを与えるような偽情報をSNSなどで繰り返し発信させるのだ。

2016年アメリカ大統領選挙では膨大なフェイスニュースが拡散したが、これまでの調査では、数多くの若者が「アルバイト」として偽情報をひたすら入力する、いわば人海戦術だったとみられている(日本の闇バイトとほぼ同じ)。

チーム・ホルヘはこれには関与していないと主張しているが、その真偽はさておき、少なくとも現在の手法は2016年より格段に高度化しているといえる。

潜入取材した記者は、アバターにどうやって架空のプロフィールや顔写真を与えるかのデモンストレーションもみることになった。

その際、ホルヘの幹部は「ソフィア・ワイルド(Sophia Wilde)」という名の若い白人女性のアイコンをみせ、「彼女はイギリス人だ。メールアドレスも、誕生日も、全てある」と説明した。後日、潜入記者はその写真をロシアのSNSで発見したという。

つまり、本人の知らないところで、顔写真が偽情報を拡散させるボットの顔として利用されているのだ。

SNSなどで集めた写真、特に若い女性の写真を(もちろん無断で)諜報活動で用いるのは、現代のスパイ企業ではポピュラーな手段といえる。

例えば、中東カタールで開催されたFIFAワールド杯の招致で大規模な買収があった疑惑では、米中央情報局(CIA)出身者が設立した「リスクマネジメント企業」の関与が指摘されている。同社は開催地決定に影響力をもつFIFA幹部の動向を知るため、若い女性の写真を用いたフェイクアカウントをFacebookに作り、コンタクトをとっていたことが判明している。

手法は異なるが、これもSNS上のプチ・ハニートラップという意味では同じだ。

政治家やマスコミもターゲット

チーム・ホルへに話を戻すと、その活動はSNSハニートラップにとどまらない。潜入取材に対してホルへ幹部は「選挙期間に通信障害を起こせる」と述べている。

実際、西アフリカのナイジェリアで2015年に行われた大統領選挙で、チーム・ホルへは当時のジョナサン大統領の陣営に雇われていたが、野党陣営の選挙対策責任者は携帯電話がしばしば通話もメール送信も不能になったと証言している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:カジノ産業に賭けるスリランカ、統合型リゾ

ワールド

米、パレスチナ指導者アッバス議長にビザ発給せず 国

ワールド

トランプ関税の大半違法、米控訴裁が判断 「完全な災

ビジネス

アングル:中国、高齢者市場に活路 「シルバー経済」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story