コラム

地球温暖化は紛争を多発させる──COP27でも問われる気候安全保障

2022年11月11日(金)15時55分
インド北部で発生した大雨による洪水

インド北部で発生した大雨による洪水(写真は8月20日、ヒマーチャル・プラデーシュ州カングラ) ANI via REUTERS

<自然環境の悪化が軍事衝突をエスカレートさせる一因であることは確認されてきた。火種を抱えるアジアの国々にとって温暖化のリスクはとりわけ大きい>


・地球温暖化は洪水や熱波などの異常気象を引き起こし、これは社会や経済に大きなダメージとなる。

・それは避難民も増やしており、こうした緊張が安全保障上の懸念も高めている。

・とりわけアジアは、その懸念が最も高い地域の一つである。

ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ世界各地には対立と緊張が蔓延しているが、地球温暖化はこれをさらにエスカレートさせかねない。

地球温暖化は安全保障上のリスク

エジプトで開催中の第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で8日、バチカン代表は地球温暖化が食糧危機、経済の混乱、格差などとともに、紛争にも深く結びついており、トータルで取り組む必要を強調した。

地球温暖化と国家の安全保障を結びつける考え方は気候安全保障(climate security)と呼ばれる。

地球温暖化はさまざまな自然災害を増やし、社会や経済に大きなダメージを与え、これが国同士の対立をエスカレートさせると考えられるのだ。

これまでも自然環境の悪化が軍事衝突をエスカレートさせる一因になることは確認されてきた。

しかし、気候安全保障への懸念は深刻さを増している。今夏ヨーロッパが500年ぶりともいわれるほどの熱波に見舞われ、インド洋沿岸でも洪水が相次ぐなど、地球温暖化による自然災害が、これまで以上に増えているからだ。

北朝鮮ミサイル危機と温暖化

ミサイル実験が相次ぐ北朝鮮情勢も、地球温暖化と無縁でないといわれる。

今年6月にはシンガポールで気候安全保障に関する国際会議が開催され、ここにも参加した国際戦略研究所フェロー、ジェフェリー・マツォ博士は「北朝鮮による核・ミサイル危機が地球温暖化で加速しかねない」と警告した。

北朝鮮では世界食糧計画の推計で1000万人以上が食糧不足に直面しているが、その一因はこの数年相次ぐ洪水などの自然災害にある。

北朝鮮の核・ミサイル開発はアメリカに「対等な交渉相手」と認めさせる手段だが、ミサイル実験には国威発揚など国内向けのデモンストレーションという側面もある。

国内で生活苦が広がり、不満がたまるほど、そうした鬱憤を晴らすように、あるいは「食糧危機で弱っている」という海外の見方が強まるほどそれを否定するために、金正恩の引き金が軽くなっても不思議ではない。

避難民の増加

リスクは北朝鮮だけではない。地球温暖化は数多くの避難民も生んでいる。

近年では各国で記録的な大雨や超巨大台風が発生する一方、その正反対に日照りや熱波が続くことも珍しくなくなった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=総じて下落、イランとの協議巡る楽観論

ビジネス

ECB、「インフレ期待が漂流」なら迅速に対応=ギリ

ワールド

ホワイトハウス舞踏場建設、地下に軍の「大規模施設」

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒感が下支え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 5
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story