コラム

プーチンとの蜜月を否定する欧米の「友人」たち──フランス大統領選への余波

2022年04月21日(木)14時45分

その一方で、ルペンは制裁に基本的には賛成しながらも、ロシア産天然ガスの輸入制限には反対している。「フランス人の生活に大きな悪影響を及ぼすから」というのがその理由で、現実的といえば現実的な言い分だが、これがロシアとの関係を払拭できていないとみられる原因の一つにもなっている。

白人至上主義者のヒーロー

ルペンに限らず、欧米の極右政治家にはプーチンに近い者が少なくない。アメリカのトランプ元大統領やペンス元副大統領、ハンガリーのオルバン首相などはその典型だ。

そこにはイデオロギー的な近さがある。一般的に極右は、国家の独立や伝統的な価値観を重視することの裏返しで、移民、LGBT、フェミニスト、多文化主義などを敵視する。グローバル化や普遍的人権を拒絶する極右にとって、プーチンはいわばヒーローでさえあった。

プーチンのもとでロシアは移民流入を制限し、イスラーム主義者を厳格に取り締まり、LGBTの権利などを制限してきた。また、「伝統的価値観」の名の下に、スカート着用で化粧をして出社した女性に報奨金を出す大企業さえある。

フランス国際戦略問題研究所のカミュ博士の言い方を借りれば、こうしたロシアは欧米極右の間で「キリスト教文明の伝統的価値観を保つ大国」と認知されてきた。

ルペンなど政治家だけでなく、末端の活動家もそれは同じだ。

ロシアの極右団体、ロシア帝国運動はプーチン政権の事実上の下部組織ともみなされているが、SNSなどでヘイトメッセージやフェイクニュースを発信し続け、多くの国で「テロ組織」に指定されている。しかし、サンクトペテルブルクにあるその訓練場には欧米各国から極右活動家が集まり、軍事訓練を受けてきた。

ところが、こうした「友人」たちは今、過去の関係をなかったことにしようと必死だ。欧米では党派を超えてプーチン批判が噴出し、極右の間からも反ロシア、反プーチンの論調が高まっているからだ。

もともと欧米の極右には、親ロシア派と反ロシア派の二つの系統がある。このうち前者を代表するのがルペンやトランプだが、後者に属するのがウクライナのアゾフ連隊だ。

ロシアによるウクライナ侵攻は、極右のなかでも反ロシア派の勢いを強めている。ウクライナ政府の呼びかけに応じて各地から数多くの極右活動家が外国人戦闘員として集まる状況は、これを如実に物語る。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story