コラム

「ロシアの侵攻がなければOK」か──ウクライナがテロ輸出国になる脅威

2022年02月17日(木)15時55分

念のために確認しておくと、世界各国からウクライナに集まった白人過激派は、敵味方に分かれている。

ウクライナには東部ドンバス地方の分離を目指す勢力と、これを阻止してウクライナの統一を維持しようとする勢力がある。このうち東部の分離派はロシアの支援を、統一派は欧米の支援をそれぞれ受けて戦闘を繰り広げてきたが、そのどちらにも白人過激派が外国人戦闘員として加わっているのだ。

しかし、立場は違っていても、外国人戦闘員の多くは「CIA、メディア、ユダヤ人などを中心とする一部エリートが真実から市民の目をあざむき、世界を支配している」というQ-Anon的な陰謀論に感化されている点で共通する。

例えば、分離派の取材をした英ガーディアンのインタビューに、テキサス出身の元アメリカ軍人で、麻薬密輸で投獄された経験もある外国人戦闘員は、そもそもクリミア危機がCIAやユダヤ人の陰謀だと断定している。

そのうえで、「初めてドンバスにきたとき、分離派民兵からアメリカのスパイと疑われたんだ。でも、"9.11にアメリカ政府が関わっていたと思うか?"と尋ねられて、"もちろん。あれが仕組まれたものでないというのはバカか嘘つきだけだ"と答えたら、初めて信用されたのさ」。

このように「CIAやユダヤ人の陰謀」と戦うため、分離派に協力する者は少なくない。

2019年に就任した現在のウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキーは、世界でも数少ないユダヤ人の国家元首である。

もっとも、分離派と戦う統一派にいわせると、話は逆らしい。統一派民兵アゾフ連隊メンバーは英ガーディアンに「我々はロシアの愛国者にもロシアにも遺恨はない。だが、プーチンはユダヤ人なんだ」と力説している。

欧米で「内戦」を目指す者

一方、同じく陰謀論に感化されていても、やや異なる経路で外国人戦闘員になる者もある。自分の出身国での軍事活動を見すえて、実戦経験を積むためにウクライナにやってくる者たちだ。

2019年にドンバスに入り、統一派の外国人戦闘員になったバージニア出身の20歳の若者は、米ヴァイスの取材に「ザ・ベース(The Base)の一員としてここにきた」と認めている。

ザ・ベースはアメリカの極右団体だが、黒人などを排除し、「CIAやユダヤ人に握られる現体制」を打倒するための軍事訓練を呼びかけている点に特徴があり、ワシントン州などに広大な射撃訓練場を保有している。

その危険性からイギリスやカナダですでに「テロ組織」に指定されているが、アメリカでは規制されておらず、近年ではオーストラリアなどでも訓練を行なっている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story