コラム

「ロシアの侵攻がなければOK」か──ウクライナがテロ輸出国になる脅威

2022年02月17日(木)15時55分
ロシア軍の侵攻を警戒するウクライナ軍兵士

ロシア軍の侵攻を警戒するウクライナ軍兵士(2022年2月10日) Vyacheslav Madiyevskyy-REUTERS


・「CIAやユダヤ人の陰謀と戦うために」ウクライナを目指す白人過激派は後を絶たない。

・なかには欧米の現体制を打倒する「内戦」を目指し、実戦経験を積むためにウクライナに向かう者もいる。

・ロシアが侵攻するかしないかにかかわらず、「ウクライナ帰り」が欧米でテロに向かうリスクは高まっている。

「ロシア軍の侵攻があるかないか」だけがウクライナ危機の脅威ではない。たとえロシア軍の侵攻がなくても、ウクライナが世界中にテロを輸出する「第二のシリア」になるリスクは、すでに現実のものになりつつあるからだ。

軍事侵攻だけがリスクではない

「事態が急速にとんでもないことになりかねない」。2月10日、バイデン大統領はこう警告して、アメリカ国民にすぐさまウクライナから退避するよう呼びかけた。

昨年10月から段階的にエスカレートしてきたウクライナ危機は、いまや暴発寸前のようにも映る。仮に軍事衝突が発生すれば、戦場となるウクライナの人的被害だけでなく、当時国の経済的損失を含めて、数百万人の生活が壊滅的ダメージを受けるとみられている。

ただし、ウクライナを震源地とする危機は、大国間の軍事衝突だけではない。ロシア軍が侵攻するかしないかにかかわらず、緊張のエスカレートでウクライナが白人過激派の巣窟になり、やがて各国にテロを逆輸出することになる公算が高いからだ。

白人テロリストのるつぼ

欧米における白人過激派のテロ事件数は近年、イスラーム過激派によるものを上回っており、治安機関のなかにもその支持者がいると報告されている。だからこそ、トランプ支持者が連邦議会議事堂を占拠した昨年、アメリカ政府は「国内テロ」を国家安全保障にとっての脅威と認定したのである。

そうした白人過激派のなかにはウクライナに渡る者が少なくない。アメリカのスーファン研究所によると、ウクライナには2019年までに世界50カ国以上から少なくとも1万7000人の白人過激派が集まっていた。

2019年にNZクライストチャーチでモスクを銃撃し、51人を殺害したブレントン・タラントもウクライナ行きを熱望していたといわれる。

危機のエスカレートはこれまで以上に白人過激派をウクライナに引き寄せているとみられる。それはちょうど、2014年からのシリアに「イスラーム国(IS)」やアル・カイダに参加するため世界中から数万人が集まったのと同じだ。

「CIAやユダヤ人の陰謀と戦うため」

なぜ白人過激派はわざわざウクライナを目指すのか。その最大の理由はウクライナが白人過激派のイデオロギーや陰謀論を満足させやすい土地だからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

〔情報BOX〕米・イスラエルがイラン攻撃、国際社会

ワールド

高市首相、経済的な影響の洗い出し指示 イラン情勢で

ワールド

ロシア、米・イスラエルのイラン攻撃を非難 「再び危

ワールド

再送-マクロン仏大統領、イラン問題で国連安保理の緊
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍事工場を攻撃...「着弾の瞬間」を捉えた衝撃映像を公開
  • 4
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKI…
  • 5
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 6
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 7
    トランプがイランを攻撃する日
  • 8
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story