コラム

2022W杯カタール招致をめぐる情報戦──暗躍するスパイ企業とは

2021年11月25日(木)14時35分

疑念を抱く人の多くが「やっぱり」と思ったきっかけは、2014年の内部告発にあった。FIFAの2人の元職員が「2018年ロシア大会と2022年カタール大会の選定で、買収などの不正が大規模に行われた」とリークしたのだ。

これを受けてソニーやコカ・コーラなど大スポンサーに調査を求められたFIFAは翌年、内部調査の結果として「違法行為はなかった」と発表し、ゼップ・ブラッター会長(当時)が「不正があったという報道は人種差別的」とカタールをあからさまに支援した。

しかし、2015年にアメリカ司法省が2018年大会、2022年大会を含むFIFA傘下の大会の放映権の受注や招致活動で40件以上の不正があったと認定し、14人を起訴したことで、カタールに関する疑惑はさらに深まった。

こうしたなか、今回の「AP砲」が炸裂したのである。

今回の報道に対して、CIA元職員チョーカーもカタール政府も不正を一切認めていない。一方、普段は硬派な報道で知られるカタールの衛星TVアル・ジャズイーラは、この件に関してほとんど触れていない。

スパイ活動の民営化

疑惑に新たな光を当てたAPは、チョーカーの会社GRAがCIAなどアメリカの諜報機関の手法をほぼそのまま用いて活動していたと指摘する。

例えば、2022年大会の開催地に立候補していたアメリカなどの動向を知るため、GRAはFIFA関係者やライバル国の関係者らにハッキングを仕掛けていたという。その際、若い女性のアイコンでFacebookなどに架空のアカウントを設けてアプローチするといった手法もとられていたといわれる。

また、GRAはカタール情報機関の職員の訓練も行なっていたとも報じられている。

こうした諜報活動の一方、GRAはカタール支持に傾く可能性のある国、あるいは逆に警戒すべき国のキーパーソンとの接触も行なっていたとみられる。その対象には、FIFA会長選に立候補した経験もあるヨルダンのアル・フセイン王子や、FIFA事務局長だったフランス人ジェローム・バルクなどが含まれる。

情報収集だけでなく秘密交渉をも担当していたとすると、もはやスパイ活動の民営化とさえ呼べるが、それだけでなくGRAは最新テクノロジーを用いて外国人の監視も行なっていたといわれる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北海ブレント先物、約2ドル安 米が中東への介入決定

ワールド

エア・インディア機のブラックボックス解析場所決まら

ワールド

ベトナム、米と新たな貿易協定巡り協議 関税見直し要

ワールド

中国、英哨戒艦の台湾海峡通過を非難 「平和と安定損
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 6
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story