コラム

パリを震撼させた斬首テロ、背景に拡大するコロナ不安

2020年10月19日(月)13時15分

事件直後に会見するマクロン大統領(2020年10月16日) Abdulmonam Eassa/Pool via REUTERS


・パリ近郊で男性が首を落とされて殺害された事件は、イスラーム過激派によるテロとみられる

・専門家の間では、フランスに限らず各国でコロナをきっかけにテロのリスクが高まると予測されてきた

・大きな衝撃となった今回の事件は、触発された他のイスラーム過激派によるテロや白人至上主義者による報復テロを呼びかねない

パリ近郊で発生した、男性が首を切り落とされるという凄惨な事件は、コロナによってテロの脅威が拡大していることを示す。

斬首テロの衝撃

パリ北部で16日、サミュエル・パティ氏が頭部を切り落とされて殺害された。

犯人は駆けつけた警官によって銃殺された。警察によると、犯人は18歳のロシア、チェチェン出身者とみられている。

事件後、Twitterに被害者とみられる頭部の画像が掲載されたが、後に削除された。警察はこのアカウントの持ち主を調査している。

犯行を受け、マクロン大統領は「イスラーム過激派によるテロ」という見方を示した。犯行前後、犯人は「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだといわれる。

報道によると、被害者の男性は歴史の教師で、授業でしばしばイスラームの預言者ムハンマドの風刺画を題材に「表現の自由」について話すことがあったという。その風刺画はフランスの新聞社シャルリ・エブドが掲載し、2015年に同社が過激派組織「アラビア半島のアルカイダ」に襲撃され、12人が殺害されるきっかけになったものだった。

もっとも、男性教師は風刺画を教材にする場合、クラスのムスリム学生に「不快にならないよう」教室から一時的に出るよう促すだけの配慮はあったという。それでもムスリム学生の保護者からはしばしばクレームがあったとも報じられている。

犯人が被害者と直接の接点があったかなどは現状では不明だが、被害者は事件直前、脅迫状を受け取っていると周囲にもらしていた。

コロナがテロのリスクを高める

凄惨なテロがフランスにもたらした衝撃は大きく、治安に責任を負うマルダナン内務大臣は、モロッコに外遊中だったが急遽帰国した。背後関係など、詳しいことは捜査の進展を待たなければならない。

フランス政府が強い警戒心をみせているのは、連鎖反応的にテロが広がるのではという危機感があるからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は5月以来の前月比マイナス 予

ワールド

マクロスコープ:円安・債券安、高市政権内で強まる警

ワールド

ABC放送免許剥奪、法的に不可能とFCC民主党委員

ワールド

アングル:EUの対中通商姿勢、ドイツの方針転換で強
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story