コラム

パリを震撼させた斬首テロ、背景に拡大するコロナ不安

2020年10月19日(月)13時15分

コロナに関心が集中するなか、これまであまり取り上げられてこなかったが、専門家の間では以前から「コロナがテロを増やすリスク」が以前から語られてきた。なぜコロナがテロを増やすとみられてきたのか。

国連安全保障理事会の反テロ委員会は6月に発表した報告書で、コロナがテロにもたらす影響として、主に以下の点をあげている。

・自宅で過ごすことが増え、特に学校が休校になった若い世代が、ネットに時間を使うことが増えた

・それにつれて、過激派によるネット上でのメッセージ発信やリクルートも増えている

・過激派はコロナ蔓延を自分たちの敵(特定の人種や宗教)と結びつけて語り、不安をもつ人々の関心を引こうとしている(いわゆる陰謀論)

これらは世界中ほとんどに共通するが、ロックダウンによって物流や金融システムが停滞するなか、これらの違法な取り引きでテロ組織が収益をあげ、財政基盤を強化したという報告もある。

また、これらに加えて、コロナによって貧困や格差、外国人差別がこれまでになく深刻化し、政府や世の中に不満を募らせる人が増えたことも無視できないだろう。さらに、開発途上国では、農業などの停滞にともなう食糧不足などもリスクとして指摘されている。

すでに高まっていた警戒

念のため補足すると、この報告書ではイスラーム過激派だけでなく、有色人種の排除を叫ぶ白人至上主義者も対象に含まれているが、イスラーム過激派に限っていうと、これまで主に中東、アフリカでの活発化が目についた。

「イスラーム国」は3月、支持者らに対して「コロナ禍のもとでも敵に情けをかけることはない」と呼びかけた。これに呼応するように、マリでは4月21日に21人が殺害され、イラクでは7月7日、ISの専門家でイラク政府テロ対策顧問も務めたヒシャーム・アル・ハージミー博士が銃殺されるなどの事件が相次いだ。

英紙フェナンシャル・タイムズの集計では、イラクだけで今年に入ってから566人以上がISによって殺害されている。

こうした兆候から、コロナのもとでもヨーロッパ各国では当局による取り締まりが強化されてきた。例えば、スペイン警察は4月末、密入国していたIS幹部アブドゥル・バリー容疑者を逮捕している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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