コラム

パリを震撼させた斬首テロ、背景に拡大するコロナ不安

2020年10月19日(月)13時15分

ただし、コロナのもとで「悪者探し」が横行する風潮のなか、イスラーム勢力への警戒がとりわけ高まったことが、ヨーロッパに暮らすムスリムの不満を招いたことも想像に難くない。今回のパリでの斬首テロは、こうした緊張が高まり、フランス当局が警戒するなかで発生したのである。

斬首テロの余波

フランスを震撼させた今回のテロは、それが次の事件を呼ぶきっかけにもなりかねない。

これまでも目立つテロが発生した場合、それに触発された者が次のテロを引き起こすことは珍しくなかった。2015年に新聞社シャルリ・エブドがアルカイダ系組織に襲撃された10カ月後、やはりパリでコンサートホールなどが今度はISに襲撃され、129名以上が殺害されたことは、その象徴だ。

さらに問題なのは、最近ではイスラーム過激派と白人至上主義の報復の連鎖もあることだ。

昨年4月、スリランカの高級ホテルなどを襲撃し、滞在していた外国人など200名以上を殺害したISは、その理由の一つに、その1カ月前のニュージーランド、クライストチャーチでのモスク襲撃事件をあげていた。この逆パターンの報復が発生するリスクは、コロナで外国人差別などがこれまで以上に広がっていることを考えると、小さくない。

パリ斬首テロは、それが衝撃的であるがゆえに、次の事件の引き金になる公算が高いといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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