コラム

「美白」クリームと人種差別──商品名の変更を迫られるコスメ産業

2020年07月02日(木)12時05分

カリブ出身の黒人で、後にアルジェリア独立戦争に身を投じた精神科医で哲学者のフランツ・ファノン(1925-1961)は、各地での臨床調査を踏まえて、当時の植民地支配が有色人種とりわけ黒人を単に政治・経済的だけでなく、精神的にも支配するものであることを暴いた。

1952年に著された『黒い皮膚・白い仮面』には、黒人でありながら白人のような思考パターンをすり込まれた結果、自分の黒い肌への拒絶反応に苦しむケースが数多く記されている。


フランスにきている黒人の女子学生で、自分は黒人の男とは結婚できないと無邪気に...告白する多くの者を、私は知っている。...それは黒人の価値を全く認めないからではなく、白人である方がずっといいからなのだ、と。 (出典:『黒い皮膚・白い仮面』p70 翻訳版の日本語を一部変更)

念のために確認すれば、これらの女子学生も黒人だ。それにもかかわらず白人の眼で自分をみて、黒人であることを過小評価し、白人世界の一員でありたいと願う喪失感に、精神科医であるファノンは恐怖症の患者に近い強迫的な性格を見出している。

「黒い皮膚・白い仮面」は生きている

ファノンの告発は、日常的、無意識的な支配のあり方を明らかにする、ポスト・コロニアリズム研究と呼ばれる学問の潮流を生む、一つのきっかけになった。

しかし、ファノンの告発から約70年を経た現在でも、欧米や白人を暗黙のうちに高級、スタイリッシュといったイメージで描く風潮は根強い。それは資金の豊富なメディアによって、むしろ増幅している。

インドの美白クリームの場合、インド人の有名女優などを起用した大々的なコマーシャルは、「白い肌こそ素晴らしい」というすり込みになったと批判される。

日本でも、化粧品メーカーやファッションブランド、スポーツジムなどの広告やポスターで、金髪碧眼のモデルが起用される割合は高い。そのこと自体、日本もファノンが暴いた自己倒錯と無縁でないことを象徴する。

呪縛から人間を解放する

かといって、「黒い方が美しい」や「日本人の方が素晴らしい」と言えば、「白人こそ最高」という主張が形を変えただけに過ぎない。

ファノンは「白人こそ最高」という呪縛から黒人を解き放つことを説いたが、その一方で「黒こそ最高」という意見には同調しなかった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、グリーンランド領有意欲変わらず デンマークと協

ワールド

米、ベネズエラ産原油の初回売却を実施 売却益5億ド

ビジネス

NY外為市場=円反発、当局のけん制発言で下げ止まり

ビジネス

米経済活動、8地区で拡大 物価上昇は緩やか=地区連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広がる波紋、その「衝撃の価格」とは?
  • 3
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救った...実際の写真を公開、「親の直感を信じて」
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 8
    宇宙に満ちる謎の物質、ダークマター...その正体のカ…
  • 9
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story