コラム

「一世帯に30万円給付」は高いか安いか──海外のコロナ補償との比較

2020年04月06日(月)12時10分

これに対して、日本では法的には非正規雇用でも社会保険に入れるはずだが、企業側が負担を嫌がって加入させないことも珍しくない。そのため、失職と同時に収入が枯渇する事態もすでに数多く発生しているが、「企業に雇用を確保するよう促す」以外の措置はみられない。

非正規雇用の従業員でさえそうなので、自営業者やフリーランスへの失業保険の適用など考えられてもいないのだろう。

さらに、育児休暇や病気休暇も取りづらい職場環境が多いなか、すでにある制度を拡張したとしても、どこまで実効性があるかは疑問だ。

そのうえ、コロナが原因で所得が減った人の公共料金や地方税の支払いを猶予するよう事業者や地方自治体に「要請」しているが、ドイツやフランスと異なりそれ以上の拘束力はない。

まとまった対策もない

いい始めればキリがないが、最後にもう一点だけつけ加えれば、日本政府のコロナ対策は遅いうえにバラバラだ。

Mutsuji200406_3.jpg

コロナ対策で評価されるシンガポールの場合、2月18日の段階ですでに対策のパッケージが発表された。これは国内での死亡例が出る前のことだった。

その他の国も、遅くとも3月中にはまとまった対策を発表した。これは「この国で暮らす全ての人を政府は守ります」というメッセージにつながる。

これに対して、日本の場合、2月13日に観光業などをはじめ企業に5000億円の緊急融資枠を設けるなど、初動は決して遅くなかった。しかし、そのあとは小出しに(政府は「切れ目なく」というかもしれないが)対策が出てきて、国民からみれば非常に分かりにくい。

そのうえ、安倍総理がまとまった対策のため数十兆円規模の補正予算を策定する方針を打ち出したのは3月末のことで、アメリカやドイツはこのときすでに100兆円以上の対策を決定していた。

もちろん、すでにロックダウンしているヨーロッパや緊急事態が宣言されているアメリカと日本をそのまま比べることもできない。とはいえ、日本でも緊急事態宣言やロックダウンが視野に入ってきているなか、一時的な直接給付だけで生きていけない人々が多くいることは、想像に難くない。

少なくとも、打ち上げ花火のような「一世帯に30万円」だけで諸外国との間にあるビハインドがリカバリーできるとは、全く思えないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン

ワールド

ガザで米国人援助スタッフ2人負傷、米政府がハマス非

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師、攻撃後初めて公の場に 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story