コラム

香港の若者が一歩も退かない本当の理由

2019年10月28日(月)16時00分
香港の若者が一歩も退かない本当の理由

彼らには失うものがない Susana Vera-REUTERS

<「自由を求める香港vs独裁的な中国」の二項対立では捉えきれない、若者を取り巻く不幸>

6月から続くデモに業を煮やした中国政府は、香港政府の責任者、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の更迭を検討中といわれる。しかし、責任者をすげ替えたり、あるいは軍事介入でデモを叩き潰したりしても、香港の若者たちの将来への幻滅が続く限り、抗議の芽がなくなることはない。

失業リスクに直面

香港デモに関して、多くの論説は「自由や民主主義を求める香港市民vs独裁的な中国共産党」という構図にフォーカスしている。実際、デモ隊が掲げる要求は、逮捕されたデモ参加者の釈放、警察の不当な取り締まりに関する独立した調査委員会の設置、自由かつ公正な選挙など、政治的なものばかりだ。

しかし、フランス革命以来の多くの政治変動では、自由や民主主義といった大義だけでなく、生活苦への不満もまた大きなエネルギーになってきた。香港デモの場合も、根本的な背景として若者の貧困と幻滅がある。

香港にある嶺南大学のサムソン・ユアン博士の調査によると、今回のデモ参加者の多くが20歳代で、そのほとんどが大卒程度の学歴をもつか在学中だ。

ビジネス都市の香港では金融やコンサルティングなど高度に知識集約型の産業が発達しているため、いい就職のために教育熱心な家庭が多い。その結果、世界銀行の統計によると、高等教育への進学率は約77%にのぼる。

ところが、やはり世界銀行の統計によると、2017年の若年失業率は8.7%で、日本(4.6%)を大きく上回る。ちなみに香港の全世代を通じた失業率は3.9%にとどまり、年長者に比べて若者が失業するリスクの高さがうかがえる。

世界中の優秀な人材が職を奪う

デモに参加するより真面目に勉強すればいいのに、仕事を探せばいいのに、という見方もあるかもしれない。

しかし、香港には金融などモビリティの高い分野を中心に、世界中から優秀な人材、経験豊富な人材が集まってくる。英語がビジネス用語として普及していることは、その一因だ。そんな競争の激しい社会では、日本と違って、新卒であることが大きなアドバンテージにならない。その結果、高学歴化した若者を吸収する十分は雇用はない。

厳しい競争からこぼれ落ちれば、若者に復帰のチャンスはほとんどない。世界銀行によると、2016年段階で若者に占めるニートの割合は約6.1%にのぼる(日本は3.5%)。

英 BBCのインタビューに答えた20歳の大学生は「いい仕事につくために大学に入ったのに、今の香港には希望がもてない」とデモ参加の理由を語っている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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