コラム

日本はプラごみ問題でガラパゴス化するか──世界を動かす「ニュー・プラスチック・エコノミー」とは

2018年10月18日(木)17時00分

統一規格の優位

この野心的なプランは、既に動き始めている。

例えば、ペットボトルを取り上げよう。コカコーラは9月、100パーセント再生可能なボトル開発で協力する企業グループに参入した。この企業グループはネスレやダノンが立ち上げたもので、コカコーラの「永遠のライバル」ペプシも加入しており、メンバーの多くはエレン・マッカーサー財団と協力している。

現状ではプラスチックに特許がなく、どの国でも基本的に自由に、しかも安価に製造されている。

しかし、素材や形状に統一規格ができれば、それを生んだ企業連合がコスト面などで圧倒的に優位に立つことになる。世界標準の座を占めたボトルの知的所有権を握れば、なおさらだ(『ニュー・プラスチック・エコノミー』では、新たに開発される素材や製品の知的所有権に関して触れられていない)。

日本では技術力を頼みにする傾向が強いが、既に市場ができている場合、技術的に優れているものが市場を握れるとは限らず、むしろ市場を握るものの技術がスタンダードになりやすい。既に世界の飲料市場で大きなシェアを握る欧米の企業連合が統一規格を生み出そうとするなか、日本の食品・飲料メーカーの方針はみえてこないが、念のためにいえばペットボトルは一つの例にすぎず、同じような状況は多くの業種で生まれている。

ガラパゴス化の行方

リサイクルのコストや石油の消費量を減らすことは世界全体のためになるが、そこから得られる利益には差が生じやすい。脱プラスチックのイノベーションは、その中核を占める企業に莫大な利益をもたらす。

逆に言えば、プラスチック製品の裾野が広いだけに、国レベルでこの動きから孤立することは、ガラパゴス化の道と紙一重だ。

独自に進化した日本の通信環境でスマートフォンの普及が遅れたことは記憶に新しい。環境省が旗ふりし、一部の企業や環境団体がそれに応じていても、経済産業省や与党にその気運が薄く、プラスチック業界だけでなく各種メーカーが総じて様子見の国内をみれば、スマートフォンと同じことが起こる見込みは小さくない。

先述のように、日本政府は来年のG20サミットでプラスチック資源循環戦略を提案する予定だが、既に『ニュー・プラスチック・エコノミー』のもとに出来あがりつつある欧米主導の流れを引き寄せることは、まさに壮大な挑戦といえる。10月19日に発表される予定のプラスチック資源循環戦略の素案は、日本がこの分野での出遅れを挽回できるか、それとも大波に呑み込まれるか、あるいはガラパゴス化するかの行方を占う、一つの試金石になるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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