コラム

「何も決めない」米朝首脳会談を生んだトランプ外交

2018年06月13日(水)16時00分
「何も決めない」米朝首脳会談を生んだトランプ外交

朝鮮戦争以来の敵だった米朝首脳会談は嘘のように軽かった Jonathan Ernst-REUTERS

<史上初の米朝首脳会談は成功だった。非核化の詳細など揉めそうなことにはすべて蓋をして、トランプの手柄ありきの外交ショーだったからだ>

大方の予想通り、ミラクルはなかった。6月12日、シンガポールで開催された米朝首脳会談の成果としてトランプ大統領と金正恩委員長が交わした合意文書は、具体的な内容に乏しいものとなった。これを生んだ一因は、自分でエスカレートさせた緊張に自分自身が首を絞められたトランプ外交にある。

「何も決めない」合意内容

米朝の合意文書は、トランプ大統領がいうように「包括的」ではあるが、そのいずれもが具体性に乏しい一般論にとどまっている。

合意文書では、まず前文で「トランプ大統領は北朝鮮に体制の保証を提供し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化への確固とした揺るぎない自らのコミットメントを再確認した」とある。アメリカにとって最優先の「非核化」と、北朝鮮が譲れない「体制の保証」の双方が盛り込まれていることで、お互いに受け入れられるものとなっている。

ただし、アメリカが「どのように」北朝鮮の体制を保証するかには不透明さがつきまとう。「アメリカが金正恩体制の崩壊を目指さない」というのであれば、相互の平和的な関係を実現するために、朝鮮戦争の終結が大前提になる。しかし、これらに関しては、共同文書で宣言された4点のうち、




・平和と繁栄を求める米朝国民の願いに従い、両国は新たな関係の構築にコミットする
・米朝両国は朝鮮半島での永続的かつ安定した平和体制の構築に向けて共同で取り組む
と述べられるにとどまっている。つまり、現状ではトランプ大統領が北朝鮮の体制の保証を「口先で」約束したにとどまる。

一方、多くの国にとって懸案である非核化に関しても、不透明という点では変わらない。合意文書では、




・2018年4月27日の(南北間で結ばれた)板門店宣言を改めて確認し、北朝鮮は朝鮮半島の非核化に向けて努力する

とあるが、最も肝心な、何をもって「非核化」と呼ぶかの定義や内容も記されていない。アメリカが強調していた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言がないだけでなく、逆に北朝鮮が主張する「段階的な非核化」を採用するとも明記されていない。プロセスも時期も明らかでないまま「完全な非核化」が強調されても、それは「将来的な目標」でしかない。

もちろん、トランプ大統領自身が事前に念押ししていたように、米朝首脳会談が一度きりでなく、回数を重ねることは、当初から折り込み済みだった。そもそも朝鮮戦争以来、一貫して両国が対立してきたことを思えば、初の米朝会合で実質的な成果が乏しかったとしても、いわばやむを得ないかもしれない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

MAGAZINE

特集:香港の出口

2019-8・27号(8/20発売)

拡大する香港デモは第2の天安門事件に? 中国「軍事介入」の可能性とリスク

人気ランキング

  • 1

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる韓国でベテラン俳優が問題提起

  • 2

    韓国金融当局、独10年債利回り連動デリバティブを調査 莫大な損失の恐れ

  • 3

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安倍政権批判集会以上が参加か

  • 4

    日本の重要性を見失った韓国

  • 5

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 6

    香港デモと中国の対立が台湾に飛び火、三つ巴の緊張…

  • 7

    韓国で広がる東京五輪不参加を求める声、それを牽制…

  • 8

    韓国、日本との軍事情報協定GSOMIAを破棄へ「安全保障…

  • 9

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 10

    和歌山カレー事件、林眞須美死刑囚の長男が綴る「冤…

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安倍政権批判集会以上が参加か

  • 3

    日本の重要性を見失った韓国

  • 4

    世界が発想に驚いた日本の「ロボット尻尾」、使い道…

  • 5

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいつ…

  • 6

    韓国金融当局、独10年債利回り連動デリバティブを調査…

  • 7

    日韓対立の影響は?韓国経済に打撃大きく、日本経済…

  • 8

    韓国人はなぜデモがそんなに好きなのか

  • 9

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 10

    世界が知る「香港」は終わった

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    日本の重要性を見失った韓国

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 5

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 6

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいつ…

  • 7

    「韓国の反論は誤解だらけ」

  • 8

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安…

  • 9

    デーブ・スペクター「吉本」「日本の芸能事務所」「…

  • 10

    「韓国に致命的な結果もたらす」日韓の安保対立でア…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!