コラム

平昌オリンピックで浮き彫りになった韓国の反イスラーム感情──「公費による礼拝室の設置」の是非

2018年02月13日(火)16時00分

室内競技が行われる江陵(カンヌン)市で設置が予定されていた礼拝室 韓国観光公社

平昌(ピョンチャン)オリンピックが開幕した2月9日、室内競技が行われる江陵(カンヌン)市で予定されていた礼拝室(プレイヤールーム)の設置中止が明らかになりました。これは、反イスラーム的な一部の市民団体が強硬に反対運動を行った結果でした。

幻の礼拝室

今回、設置中止が決まった礼拝室は、今年1月に韓国観光公社がその建設を決定したばかりのものでした。ムスリムには1日5回、聖地メッカの方向に向かって礼拝する義務があります。江陵での計画は、5~6人が一度に礼拝できるコンテナ型で、空調設備を備えた礼拝室を2ヵ所に設置するというものでした。

韓国は観光産業を振興しており、日本や中国からの観光客がその柱でした。しかし、日韓関係の悪化とともに日本人観光客は減少。さらに、北朝鮮の弾道ミサイルを念頭に、2016年7月に韓国が米国との間で在韓米軍に高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を配備すると決定して以来、これに反対する中国との関係は冷却化。中国人観光客が減少するにつれ、東南アジアのマレーシアやインドネシアをはじめ、イスラーム圏からの観光客の誘致が重視されてきたのです。

韓国観光公社は「ムスリム・フレンドリー・コリア」を掲げ、豚肉やアルコールなどムスリムが食べられない食材に配慮した「ハラール認証」の普及などを推進。その結果、2017年段階でイスラーム圏からの観光客は98万人にのぼり、これは前年比33パーセント増の成長ぶりでした。

ところが、冒頭で紹介したように、江陵で礼拝室を設置する予定が、開会式当日になって中止されたのです。世界中から観光客が訪れる機会でもあるオリンピックで、「ムスリム・フレンドリー・コリア」はなぜ否定されたのでしょうか。

韓国のイスラモフォビア

礼拝室の建設中止は、一部の市民団体の抗議運動を受けてのものでした。礼拝室設置計画が発表された後、「平昌オリンピック・イスラーム対策江原道民協会」を名乗る市民団体が、これに反対するインターネット上の署名運動を展開。2月8日までに、これに5万6000人以上が署名しました。

この団体は、主に以下の点を強調して、礼拝室の設置に反対しています。

・国民の血税を特定の宗教のために偏って支出することは認められない

・これまでハラール地区の建設などに反対してきた(江陵市を含む)江原道の住民の意思を無視する決定である

・国民の大多数からの反対にあうだろう

・ムスリムのなかにイスラーム過激派もいることを警戒していない

・過激派ムスリムの排除に向かう世界的な流れに逆行している

これらの主張には、全体的に閉鎖的な排外主義だけでなく、欧米諸国などでイスラモフォビア(イスラーム嫌い)と呼ばれる差別主義のトーンが濃厚で、思い込みや過剰反応が目立ちます。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、クレジットカード金利に10%の上

ビジネス

関税返還となった場合でも米財務省には十分な資金=ベ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米雇用統計予想下回る 円は

ワールド

米、ベネズエラと連携し石油タンカー拿捕=トランプ氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 6
    「不法移民からアメリカを守る」ICEが市民を射殺、証…
  • 7
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 10
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 8
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 9
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story