コラム

ふるさと納税の「趣旨」を語る白々しさ

2022年06月21日(火)06時25分
ふるさと納税

CLOCKWISE FROM TOP LEFT: KUPPA_ROCK/ISTOCK, GRASSETTO/ISTOCK, Y-STUDIO/ISTOCK, PROMO_LINK/ISTOCK

<ふるさと納税で現金を受け取れるとうたった「キャシュふる」が3日で終了となった。総務省は「制度の趣旨」から外れたと言うがそうだろうか。返礼品競争と利益追求に自治体と人々を巻き込んでいるのは一体誰か>

ふるさと納税の返礼品の代わりに現金を受け取れるとうたった「キャシュふる」が、6月8日の公開後わずか3日で返金、サービス終了へと追い込まれた。所管する総務省が「制度の趣旨」から外れるとの見解を迅速に示したことも大きかったようだ。

だが実際、返礼品の代わりに現金を受け取れるという仕組みは、ふるさと納税の実際の「趣旨」からどれだけ外れているだろうか。

そもそも、ふるさと納税は「ふるさと」でも「納税」でもない。自分が選んだ自治体に寄付をすると、そこから2000円という少額の自己負担を除いた額が住民税などから控除され、さらに多くの場合は自治体から肉や家電などの返礼品がもらえるからお得だという仕組みである。

今や誰もが知っていることだが、利用者の多くは総務省の言う「恩返し」としてではなく、節税の手段として使っているにすぎない。

自治体間ではふるさと納税をめぐって激しい奪い合いの構図になっており、その競争を勝ち抜く手段として換金性の高い商品やギフト券などを用意するところもたびたび出てきた。

従って、現金の受け取りを訴求した「キャシュふる」には確かに一定の新しさがあったものの、そもそもふるさと納税ってそういうものだよねという認識は元からあったのだ。

自治体側には返礼品の調達コストやふるさと納税サイトに支払う手数料などがかかるため、日本社会全体としては、この制度を通じて公的なサービスに回せる実質的な金額の合計は目減りする。だが、個別の自治体や個人にはこのゲームから降りる動機付けがなく、むしろ参加しないと損をする構図になっている。

つまり、全体を犠牲に個が得をする状況を政府が創出し、その渦中に自治体も個人も巻き込まれているわけだが、かといって全ての個が得をできるわけでもなく、むしろゲームに参加しない個や負けた個は損をする。さらに、高所得者ほど多く寄付ができ、多くの返礼品を受け取れるという設計も不公正さを増している。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の人選、来年初めに発表=トランプ氏

ワールド

プーチン氏、欧州に警告「戦争なら交渉相手も残らず」

ビジネス

ユーロ圏インフレは目標付近で推移、米関税で物価上昇

ワールド

ウクライナのNATO加盟、現時点で合意なし=ルッテ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story