コラム

離脱(Exit)と発言(Voice)、「この国から出ていけ」について

2023年01月20日(金)11時15分
暴言

写真はイメージです Instants-iStock.

<『朝まで生テレビ!』で発せられた、物騒な言葉が目に留まった。結局、外国人に向けた差別的な言葉でないことが分かり、ややホッとする気持ちもあったが、別の違和感が残った>

年末年始はインターネットがつながらない山の中で過ごすことにした。普段の仕事や生活はネット環境なしに成り立たず、だからこそあらゆる通知やニュースから解放された時間はとても贅沢に思える。

だがそんな非日常にも終わりは来る。山から下りれば電波が戻り、スマホを開ければ数日分のメールが返信を待ち受け、SNSからは心をざわつかせるさまざまな情報も飛び込んできた。

そんなふうにして、今年の最初に目に留まったのが「この国から出て行け」という物騒な言葉だった。テレビ朝日系の名物番組『朝まで生テレビ!』の元旦スペシャルで司会の田原総一朗氏が口にしたという。

タイムライン上の見出しで最初にこの言葉を目にした瞬間は、それが「日本人」から「外国人」に向けられたものかと思い、まずはぎょっとした。

生活保護の利用を申請した外国籍の女性が、市の職員から「外国人には生活保護費は出ない」と誤った情報を伝えられ、「国に帰ればいい」と言われたとする報道を年末に見ていたからかもしれない。

あるいは、大阪のコリア国際学園で段ボールに火を付けるなどのヘイトクライムに及んだ男性に対し、大阪地裁が有罪判決を下したのも12月のことだ。

田原氏の発言があったのは、「日本は立て直せる?」というフリップに各出演者が「◯」か「×」を書いて討論するコーナーでのことで、そのお題に否定的な見解を示した出演者に向かって、「だったらこの国から出て行け」「この国に絶望的だったら出て行きゃいい」と発言したようだ。

従って、外国人に「この国から出て行け」と言ったわけではなかった。私の中にはそれを知ってややホッとする気持ちもあったが、同時に少し別の違和感が残った。

想起したのは、経済学者のアルバート・ハーシュマンが「企業・組織・国家における衰退への反応」として「離脱(Exit)」と「発言(Voice)」の区別を示した有名な議論だ。

例えば、顧客が商品の購入をやめたり、職員が退職したりするのが「離脱」で、彼らが企業に意見をぶつけるのが「発言」だと理解してほしい。重要なのはハーシュマンがこの両者を経営者などが自らの失策を感知し得る2つの代替的なルートとして提示していることだ。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、シリア南部に防衛地帯設置へ ゴラン高原

ビジネス

過剰政府債務、25年に市場揺るがす恐れ=BIS報告

ワールド

ブラジル大統領、脳出血で緊急手術 経過は良好

ビジネス

米シティ、第4四半期の投資銀手数料は25─30%増
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 2
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新研究が示す新事実
  • 3
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主役の座を奪ったアンドルー王子への批判も
  • 4
    無抵抗なウクライナ市民を「攻撃の練習台」にする「…
  • 5
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ジンベエザメを仕留めるシャチの「高度で知的」な戦…
  • 8
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 9
    シリア政権崩壊...反体制派の電撃進軍を可能にした「…
  • 10
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 1
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 2
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 3
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 4
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 5
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 6
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 7
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 8
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 9
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 10
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 9
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 10
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story