コラム

マイノリティーであることを「意識しない」社会がよい社会か?

2022年11月19日(土)11時15分

ILLUSTRATION BY MICROVONE/ISTOCK

<「ごく普通の隣人として......」日本の入管政策のトップを務めた人物のインタビューの中に、気になる発言があった。外国人や障害者の状況を改善するには、マジョリティーの側に変化が求められる>

11月3日に国連の自由権規約委員会が日本の全般的な人権状況についての勧告を公表した。

そこでは入管施設の被収容者が2017年から2021年の間に3人も亡くなっていることが指摘され、ほかにも難民認定率の低さや仮放免者の置かれた不安定な状況など、日本社会における外国人の処遇に関してさまざまな人権上の懸念が示されている。

そんな折、今年の8月に出入国在留管理庁長官を退任した佐々木聖子氏のインタビューが朝日新聞に掲載されていた。2019年以来、入管政策のトップを務めていた人物だ。

先の勧告に直接言及する内容ではなかったものの、これまで何度も人権侵害が指摘されてきた技能実習制度の見直し論議や、自らが組織を率いた時期に起こった収容施設内での死亡事案などについても語られている。

やりとりの中で特に目に留まった箇所があった。

佐々木氏が「日本をどのような社会にしたいと考えるのかを議論」すべきだとした上で、「外国人であることを意識せず、ごく普通の隣人として付き合いができる社会になればいい」と述べているところだ。

佐々木氏が思い描く外国人受け入れや日本社会の理想像が示されているようでとても興味深い。

私が違和感を覚えたのは、「外国人であることを意識」しないことが、「ごく普通の隣人」としての付き合いにつなげられ、肯定的に捉えられている点だ。

どんな違和感か。補助線を引きつつ考えてみたい。

10月20日にれいわ新選組の天畠大輔参議院議員が予算委員会で初の質疑に臨んだ。四肢麻痺や発話障害など重度障害のある天畠氏は、通訳介助者や代読者らと共に質問した。

代読される予定原稿は事前に準備できるが、答弁に対する追加質問はその場で独自の「あかさたな話法」を用いて天畠氏から介助者に伝える必要がある。そのため天畠氏は質問時間の計測を止めるよう配慮を求めた。

こうした天畠氏の質疑は、その内容と形式の両面で、障害者に対する合理的配慮、つまり障害者が健常者と「同じ土俵」に立つために必要な配慮について、岸田首相や国会議員、国会を視聴する全ての人々に考えることを促すものだった。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

ナゴルノから脱出のアルメニア系住民、5万人超に 元

ワールド

EUの中国製EV調査、国際貿易の基本ルールに違反=

ワールド

中国、反腐敗の取り組みを強化へ=新華社

ビジネス

米耐久財受注、8月は予想外に増加 設備投資の勢い復

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    ロシア黒海艦隊、ウクライナ無人艇の攻撃で相次ぐ被害──「大規模反攻への地ならし」と戦争研究所

  • 3

    ウクライナが手に入れた英「ストームシャドウ」ミサイルの実力は?

  • 4

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 5

    電撃戦より「ほふく前進」を選んだウクライナ...西側…

  • 6

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 7

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 8

    「可愛すぎる」「飼いたくなった」飼い主を探して家…

  • 9

    「嘔吐する人もいた」アトラクションが突如故障、乗…

  • 10

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...「スナイパー」がロシア兵を撃ち倒す瞬間とされる動画

  • 3

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 4

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 5

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 6

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 7

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファ…

  • 8

    ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、…

  • 9

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 10

    「クレイジーな誇張」「全然ちがう」...ヘンリーとメ…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があっ…

  • 5

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 6

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story