コラム

園児バス置き去り死とその報道に見る、「注意不足」のせいにする危うさ

2022年09月16日(金)20時05分

乗降中の通学通園バスを後続車が追い越したり、対向車がバスとすれ違ったりする際の安全確保についても、「精神論」対「機会論」という構図が見られる。

日本では「徐行して安全を確認する」(道路交通法)だけでよいが、アメリカやカナダでは、後続車や対向車は停車しなければならない。つまり、日本では「注意するから大丈夫」(原因論)だが、アメリカやカナダでは「注意力は当てにならない」(機会論)なのである。

komiya220916_schoolbus2.jpg

カナダでは、後続車と対向車はスクールバスの20メートル手前で停車しなければならない 筆者撮影

このように、日本人の多くは、「人」に注目する「犯罪原因論」にどっぷりつかっていて、「場所(景色)」に注目する「犯罪機会論」を知らない。そのため、防げたはずの事故や事件を防げていない。

「人がトラブルに巻き込まれるのは知らないからではない。知っていると思い込んでいるからである」

アメリカの作家マーク・トウェインは、そう語ったと伝えられているが、事故や事件についても同じことが言える。

事故や事件が発生しても、それは偶然であって、運が悪かったと考えるのが日本人の常識である。しかし、そのほとんどは、事故や事件の発生確率が高い状況で起こっている。言い換えれば、確率の高低さえ分かっていれば、防げたはずの事故や事件ばかりなのである。

日本の常識は世界の非常識

現代のような情報社会にあっては、事故や事件に関する情報は満ちあふれている。そのため人々は、事故や事件について知っていると思い込んでいる。事故や事件が起これば、そこかしこで、そのコメントが飛び交うものの、日本の常識は世界の非常識であることが多い。例えば、次のうち、知っているのはいくつあるだろうか。

1 事故や事件は、「入りやすく見えにくい場所」で起こりやすい(犯罪機会論)。いじめや労働災害も「入りやすく見えにくい場所」で起きやすい。インターネットやSNSで犯罪に巻き込まれるのは、そこが「入りやすく見えにくい場所」だからだ。

2 日本では、「不審者」という言葉が普通に使われている(犯罪原因論)。しかし海外では、この言葉は使われていない。そのため、学校でも「不審者に気をつけて」と子どもたちに教えたりはしない。教えているのは、「危険な状況」や「だまされない方法」だ(犯罪機会論)。

3 日本では、防犯ブザーを渡し、「大声で助けを呼べ」「走って逃げろ」と指導している(犯罪原因論)。これらは犯罪発生後のことであり、襲われたらどうするかという「クライシス・マネジメント」である。しかし海外では、襲われないためにはどうするかという「リスク・マネジメント」が主流だ(犯罪機会論)。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノボ、来年から米で糖尿病・肥満症薬の定価最大50%

ワールド

英、ビザ不要な85カ国からの渡航者に電子渡航認証の

ワールド

トランプ関税還付請求権の取引価格、米最高裁判決後に

ワールド

原油先物は7カ月ぶり高値付近、米イラン協議控え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 8
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 9
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 10
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story