コラム

横浜市長選で「秒殺」された菅首相が描く総裁選・総選挙シナリオ

2021年08月23日(月)19時44分

相次ぐ難題に菅首相の胸中は? Thomas Peter-REUTERS

<菅首相のお膝元・横浜で争われた市長選挙は野党系候補の圧勝という結果に終わった。個別の地方選挙は国政に影響しないと自民党幹部は総選挙へのダメージを否定するが、コロナ対策批判という荒波を乗り越えるため菅首相はどんな「次のシナリオ」を描いているのか>

8月22日に行われた横浜市長選挙で、野党共闘候補の山中竹春氏が自民党の小此木八郎・前防災相を破り、約18万票の大差をつけて圧勝した。自民党にとっては4月の衆院・参院補選や7月の都議選に続く手痛い敗北で、「横浜の不覚」が菅首相の解散総選挙戦略に与える影響は不可避であろう。

今回の市長選挙は、現職の林文子市長の他に田中康夫・元長野県知事や松沢成文・前神奈川県知事など、候補者8人が乱立する選挙となり、法定得票数(有効投票総数の25%)に誰も届かず「再選挙」になる可能性も指摘されていた。しかし、IR(カジノを含む統合型リゾート)誘致問題だけでなく、デルタ株の感染爆発が止まらない状況の中で「菅政権のコロナ対策の是非」も争点化。広く関心を集めた結果、投票率は前回より約12ポイント増の49.05%に達した。

選挙戦終盤の情勢調査からは、山中候補が圧勝する可能性が取り沙汰されており、投票が締め切られた午後8時直後に「当確」が出たこと自体に驚きはない。しかし、首相のお膝元で、現役閣僚がその座を投げうって挑戦した市長選挙で敗れるという一連の結果に衝撃が走っている。

各社の出口調査結果などを見ると、50万6392票(得票率33.59%)を獲得した山中竹春氏は、立憲民主、共産、社民の各支持層を手堅く固めるとともに、無党派層から4割前後の支持を得ている。これに対して小此木氏は無党派層の支持は1割前後にとどまり、公明党の支持層はほぼ固めたものの、自民党支持層の投票先は小此木氏だけでなく、林氏や山中氏などに分散した。

IR誘致を巡って保守系候補が小此木氏と林氏に分裂した影響は大きく、また無党派層の「政権批判票」が菅首相と近い関係にある小此木候補を直撃した形だ。立憲民主党の江田憲司・代表代行が擁立を主導した新人・山中竹春氏は、横浜市立大学医学部教授として「コロナの専門家」であることをアピールし、感染爆発で溜まる政権批判票の受け皿となった。今回の選挙特有の問題として、IR誘致を巡る住民投票条例案の否決と林市長への批判の高まり、林市長に代替する候補者の選定難航、「ハマのドン」と呼ばれる藤木幸夫・横浜港ハーバーリゾート協会会長と菅首相との関係、山中候補の適性に関する「落選運動」といった様々な個別の要素が背景にあろう。また、田中康夫氏や松沢成文氏のような県知事経験のある著名人が出馬したことによる票の分散が与党系、野党系ともに影響を与えており、今回の横浜での選挙結果が必ずしも、次の衆議院小選挙区選挙にそのまま妥当する訳ではない。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定

ワールド

トランプ政権、亡命申請無効化を模索 「第三国送還可

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story