コラム

「この国は壊れていない」と主張し、極右勢力に対抗...イギリス首相の「反撃」に英国民の反応は?

2025年10月01日(水)17時22分

党首演説を聞かなかった議員さえいる

「労働者階級の尊厳、公共サービス、愛国心がこの政権の核。しかし『英国は壊れていない』と言い切った点はリスク。大多数の国民は『壊れている』と感じており、そこに大きなズレがある。首相官邸と党の関係が改善されなければ、演説の効果は続かない」(ホワイト氏)

英誌ニュー・ステイツマンのエイルブ・リア記者は「演説は確かに良かったが、議員の支持回復には直結していない。多くの労働党議員は失望感を持ち続け、党首演説を聞かなかった者さえいる。スターマー政権は派閥闘争を持ち込みすぎ、党内の幅広い層を活かせていない」という。

「改革英国党 vs 労働党という二項対立を打ち出したのは選挙戦略的に理解できる。しかし一部の進歩的有権者は緑の党や自由民主党に流れ続ける危険がある。今後は労働党内文化を変えることが不可欠」とリア記者は注文を付ける。

政策や国の方向性より党内の力学を優先

労働党内にはスターマー氏が党首になる過程でジェレミー・コービン氏の強硬左派から主導権を奪う際の戦闘的な姿勢や派閥的人事と意思決定が続いているとの批判がくすぶる。官邸と労働党下院議員団の関係もぎくしゃくし、政策や国の方向性より党内の力学が優先される。

スターマー氏は「英国はいま分かれ道に立っている。私たちは品格ある国家を選ぶのか。それとも分断を選ぶのか。再生か衰退か」と呼びかけた。しかし党内の派閥対立を解消し、課題を解決するため意見を尊重し合える環境をつくれるかが反撃の出発点になる。

ニューズウィーク日本版 2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月7日号(9月30日発売)は「2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡」特集。投手復帰のシーズンも地区Vでプレーオフへ。アメリカが見た二刀流の復活劇

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、予想外の3.2万人減 23年以来

ワールド

ハマス、米調停案の検討3日目に 赤十字がガザでの活

ワールド

EU首脳「ドローンの壁」協議、ロシアの領空侵犯に対

ビジネス

9月米ISM製造業景気指数は49.1、7カ月連続で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」してしまったインコの動画にSNSは「爆笑の嵐」
  • 3
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引き締まった二の腕を手に入れる方法
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かっ…
  • 8
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 9
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 10
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 4
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 7
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 8
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story