コラム

ロシア反政府活動家ナワリヌイ氏「獄死」...大統領選を前にプーチンは怯えている 「これは強さではなく弱さ」

2024年02月17日(土)12時07分

ロシア当局の関与が疑われる2億3000万ドルの横領事件を告発し、約1年拘留された挙げ句、09年に獄死したセルゲイ・マグニツキー弁護士に調査を依頼していたビル・ブラウダー氏はXで「プーチンがナワリヌイ氏を暗殺したのは間違いない。それは彼が勇敢にもプーチンに立ち向かったからだ」と断言した。

「ナワリヌイ氏はロシア国民にクレプトクラシー(盗賊政治)と抑圧に代わる選択肢を提供した。だから殺された。彼の死はナワリヌイ氏の家族にとってもロシアにとっても悲劇だ。ロシア当局によるマグニツキー氏の死と同じ完全な隠蔽工作が行われるだろう。彼らが使う言葉は想像がつく。自然死、暴力の兆候なし、予期せぬ死などだ」(ブラウダー氏)

「ナワリヌイ氏の死はプーチンの首に一生かけられる」

『プーチンの戦争:チェチェンからウクライナまで』の著者でシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級研究員は英紙タイムズのタイムズ・ラジオに出演し「ロシア国内でもプーチンがナワリヌイ氏を直接的あるいは間接的に殺したと考えない人はまずいないだろう。それはプーチンの首に一生かけられる」と語っている。

「ナワリヌイ氏が重要な人物であった理由は2つある。彼が通常の野党の枠組みを超えて手をつなぐ並外れた能力を持っていたことだ。プーチンにとって彼を本当に危険な存在にしたのは生活費を稼げず不満を抱えている工場労働者であろうと、リベラルな中産階級の知識人であろうとプーチン体制に辟易している世論をまとめ上げるカリスマ性や組織力だ」

「もう1点はナワリヌイ氏がロシアに戻ってきたことだ。20年にプーチンの工作員に神経剤ノビチョクを盛られたナワリヌイ氏はドイツで治療を受け、そのままそこに留まることもできた。居心地のいい西側に亡命してロシアで起こっていることについて不平を言うこともできただろう。しかし彼はロシアでのゲームに参加し続けるため舞い戻った」

「独房生活や不眠で崖っぷちに追い込まれたナワリヌイ氏はそれに耐える体力を失っていたのかもしれない。この死が彼を殉教者にし、人々を街頭へと向かわせるのかどうか、この段階で判断するのは難しい。非常に残忍な現体制の体質を考えるとおそらく大規模な抗議デモは起きないだろう」とガレオッティ氏は言う。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story