コラム

米兵が殺害されても「報復」はこの及び腰...これでバイデン大統領はイランへの抑止力を回復できるのか

2024年02月03日(土)18時43分

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは社説(2日付電子版)で「バイデン氏はようやくイランを抑止する?」と題し「ヨルダンの米軍基地で3人の米兵が死亡したドローン攻撃について米政府高官は数日前から攻撃を行うとアナウンスしていた。メディアへのリークによれば米国は中東の天候が良くなるのを待っていたようだ」と皮肉っている。

「民兵組織は事前に警告を受けた。彼らがまだ残っていたら世界一間抜けなテロリストだ。イスラム革命防衛隊の将校たちは逃げ出してもぬけの殻だった可能性が高い。10月中旬以降、米軍基地や艦船に対する160回以上の敵の攻撃にもかかわらず、弱い米側の報復攻撃は今のところ機能していない。テヘランは米兵殺害の手助けをしても何の代償も払っていない」

「戦争に備えなければ、平和は得られない」

バイデン政権はウクライナへの軍事支援でもエスカレーションとロシアとの核戦争に巻き込まれるのを恐れる余り、先手を打てず、ウクライナ軍の反攻を不発に終わらせてしまった。戦時体制に移行したプーチンは石油・天然ガスを戦争資金源として国内の武器弾薬の生産能力を拡大する一方でイランや北朝鮮と「ならず者国家の枢軸」を形成している。

米シンクタンク「大西洋評議会」サイトへの寄稿(1日付)でキルスティン・フォンテンローズ研究員は「敵のドローンが米兵を殺害したのは初めてだ。米陸軍や海兵隊の兵士が敵の空爆によって殺害されたのも1953年以来初めてのことだ。米国が純粋に軍事作戦を実施しても、イランに対する『抑止力の回復』にはつながらない」と懐疑的な見方を示している。

「テヘランは米国がイランと戦争する可能性はないと信じているが、それは少なくとも米国がそう言い続けているからだ。その信念が続く限り、テヘランは米国の決意の限界を試すために代理人を育成し続けるだろう。テヘランはバイデン政権が選挙の年にエスカレートの危険を冒すことを嫌っていると感じている」(フォンテンローズ研究員)

米スタンフォード大学フーバー研究所のニーアル・ファーガソン上級研究員は英大衆紙デーリー・メール(3日付電子版)に「バイデンがプーチンを恐れ、イランに宥和政策をとることで第三次大戦の可能性は低くなるどころか、高まっている。歴史の大きな教訓を理解するのに12カ月はかかるだろう。戦争に備えなければ、平和は得られない」と寄稿している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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