コラム

英政府の密航者対策は「ナチスと同じ」残酷さと、あのリネカーが大批判して議論沸騰

2023年03月08日(水)19時03分

1834年に奴隷制度が廃止されると、インド人年季奉公労働者の需要は飛躍的に高まり、アフリカやカリブ海のプランテーションに大量に送り込まれた。第二次世界大戦後、極度の労働力不足に見舞われた英国はこうしたインド系移民を受け入れた。インドから二度にわたって移住したことから「二度移民」と呼ばれ、英国人としての意識と忠誠心が極めて強い。

ブラバーマン内相は7日、下院で不法入国者対策法案について「この2年間で小型ボートによる密航が500%増加した。本法案は不法入国者を国外退去させるまで拘留することを可能にする。保釈も、拘留後28日間の司法審査も認められない。不法入国者が強制退去を阻むために2015年現代奴隷法を悪用することも認めない」と断言した。

不法入国者対策法案とは

不法入国者対策法案が成立すれば、英国から強制退去させられた人は将来、英国への再入国や英国籍を取得できなくなる。「合法ルート」で定住できる難民の数に上限を設ける。昨年4月、ボリス・ジョンソン英首相(当時)は英国への密航者をアフリカ中部ルワンダへ移送する方針を打ち出したが、「人権上、問題あり」として法廷で争われている。

ブラバーマン内相の説明では昨年、現代奴隷法を適用して1万7000件の事案が平均543日かけて検討された。欧州の安全な国であり、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のアルバニア国民からの難民申請の50%以上が許可された。「もうたくさんだ。こんなことは続けられない。政府と首相はボートを止めるために今すぐ行動する」とブラバーマン内相は言った。

2015年以来、英国は約50万人の難民を受け入れてきた。その中には独裁政治から逃れた香港の15万人、ウラジーミル・プーチン露大統領の戦争から逃れたウクライナ人16万人、タリバンから逃れたアフガニスタン人2万5000人などが含まれている。しかし現在16万6000人以上もの難民申請者が英国に残留できるかどうかの判断を待っている。

英シンクタンク「オックスフォード移民監視団」によると、21年時点で英国における難民申請の平均待ち時間は15カ月半、フランスは8カ月半、ドイツは6カ月半、オーストリアは3カ月余だった。21年に小型ボートで英国に到着した人のうち申請に対して決定があったのはわずか4%。申請から1年以上経たないと英国では就労できない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク

ワールド

アングル:ロシア社会に迫る大量の帰還兵問題、政治不

ワールド

カーク氏射殺、22歳容疑者を拘束 弾薬に「ファシス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story