コラム

習近平はどうして「死に体」プーチンとの連携を強化するのか

2022年09月17日(土)07時16分
プーチンと習近平

ウズベキスタンで久々の会談を行ったプーチンと習近平(9月15日) Sputnik/Sergey Bobylev/Pool via REUTERS

<ウクライナの戦場では苦戦が続き、外交的にも経済的にも苦境に陥っているプーチンのロシアを中国が変わらず支え続けるのにはしたたかな計算が>

[ロンドン発]ウラジーミル・プーチン露大統領と中国の習近平国家主席は15日、ウズベキスタンで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて会談し、「中露の友情」と包括的・戦略的協力パートナーシップを改めて強調した。中露首脳が対面方式で会談するのは北京冬季五輪に合わせた2月以来で、ロシアによるウクライナ侵攻後は初めて。

ロシア軍がウクライナの占領地域から潰走、その跡から440遺体を超える集団墓地が見つかるなど残虐行為がさらに浮き彫りになる中、習氏が敢えてプーチン氏と会談した理由は何なのか。ロシア大統領府の発表によると、プーチン氏は会談冒頭、「ウクライナ危機に関する中国の友人のバランスの取れた立場を高く評価している」と習氏に感謝の意を伝えた。

しかし戦局の混迷に「中国の疑問や不安は理解できる。この問題に関するロシアの立場を詳しく説明する」と取り繕った。ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台をきっかけに緊迫する台湾情勢について「ロシアは『一つの中国』の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星国の挑発を非難する」と中国の立場を支持した。

プーチン氏は「一極集中の世界を作ろうとする試みは醜く、圧倒的多数の国家にとって容認できないものだ」とする一方で、「昨年、中露の貿易額は35%増加し、1400億ドルを突破した。今年に入ってからの7カ月間で2国間貿易はさらに25%増加した。近い将来、貿易額を2000億ドル以上に増やせると確信している」と経済関係の強化に胸を張ってみせた。

習氏「相互の核心的利益に関わる問題で相互支援を拡大する」

中央アジアに一帯一路の一部である「シルクロード経済ベルト」を構築したい習氏は「歴史上前例のない地球規模の急激な変化に直面し、中国はロシアの仲間とともに責任あるグローバルパワーとしての範を示し、世界を持続可能な発展の軌道に乗せるために指導的役割を果たす」「相互の核心的利益に関わる問題で相互支援を拡大していく」と応じた。

中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は「中露関係は歴史上最高の状態にある。首脳会談は2国間関係の着実な発展のための保証であり、中露関係が外部の雑音に影響されないことを示すものだ。中露を政治的・軍事的に結びつけて他の世界との間に楔を打ち込もうとする米欧の試みに対しても中国は警戒を強めている」という専門家の見方を伝えた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story