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今や最も恐いのは「狂信」ではない 「悪魔の詩」著者の襲撃事件が問う現代の危機
殺人未遂罪で起訴されたマタル被告はシーア派民兵組織ヒズボラ幹部を連想させる偽名を使っていた。母親は英大衆紙デーリー・メールに「離婚してレバノンに帰った父親を2018年に訪ねてから、地下室に鍵をかけて何カ月も家族と話すのを拒み、宗教に傾倒するようになった。どうしてイスラム教を教えてくれなかったと詰め寄られた」と話した。
ムンバイ出身のラシュディ氏は、「無神論者こそ神の偉大さを知る」という弁護士の父の考えに同意して無神論者になった元イスラム教徒。「真夜中の子供たち」(1980年)、「恥」(1983年)で英文壇に旋風を巻き起こした。隠遁生活について「憂うつ、当惑、精神錯乱、孤独だ。誰とも話すことができないのは本当に恐ろしいことだった」と回想している。
「表現の自由」とイスラムの衝突
「悪魔の詩」の出版に関わった人たちも世界中で悲劇に襲われている。89年「悪魔の詩」の出版社が所有する書店の外に爆弾が仕掛けられた。91年にはイタリア語に翻訳したエットーレ・カプリオーロ氏がミラノの自宅で刺された。日本語翻訳者の筑波大学の五十嵐一助教授=当時(44)=がキャンパスで首などを切られて殺害された。五十嵐氏の事件は未解決だ。
93年にはトルコの翻訳者アジズ・ネシン氏の宿泊先ホテルが放火された。ネシン氏は何とか脱出できたが、37人が犠牲になった。その数カ月後、ノルウェーの出版者ウィリアム・ナイガード氏がオスロの自宅の外で3発撃たれ、重症を負った。欧米の文化の根幹をなす「表現の自由」とイスラムの対立はその後も世界を揺さぶり続けている。
「文明の衝突」の象徴になった2001年の米中枢同時テロ。04年、イスラム社会での女性への暴力を描いたオランダ人映画監督の暗殺。05年、ロンドン地下鉄・バス同時爆破と、デンマーク紙のムハンマド風刺画事件。15年の仏風刺週刊紙シャルリエブド襲撃や死者130人を出したパリ同時多発テロと、対立はイスラム過激派に利用されてきた。
事件を受け、ジョー・バイデン米大統領は13日、「衝撃を受けた。世界中の人々とともに彼の健康と回復を祈る。私たちはラシュディ氏と表現の自由を守るすべての人々と連帯し、米国の価値観への深いコミットメントを再確認する」との声明を発表した。英国、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ首脳も「表現の自由」に対するテロを一斉に非難した。
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