コラム

英元外交官が語る安倍氏のレガシー 「日本は彼のビジョンを前向きに引き継ぐべき」

2022年07月26日(火)18時27分

──なぜ中国に対処するために経済と地政学を組み合わせなければならないのか。

ヘンダーソン 中国が経済的な富を武器に政治的、軍事的に利用しているからだ。純粋に経済上の競争なら何の問題もない。中国は経済的、政治的、軍事的圧力を一つの力として極めて効果的に使っている。アメリカが「世界の警察官」だった時代は終わった。だからこそ日本やベトナムが参加できる統一された統合モデルがインド太平洋に必要不可欠なのだ。

──昨年3月、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)は2027年までに台湾への脅威が顕在化すると証言した。

ヘンダーソン 中国がどんな手段を使ってでも台湾を取り戻すつもりであることは極めて明白だ。27年はご存知のように中国人民解放軍の創設100周年。中国にとって100年という区切りは非常に大きな象徴的な意味を持つ。デービッドソン司令官はおそらく27年までに中国が軍事的に台湾への侵攻を成功させることができる状態になると言ったのだろう。

24年の台湾総統選で現在の副総統で台湾独立を主張する頼清徳(ウィリアム・ライ)氏が選ばれるようなことになれば、中国は行き過ぎと考える可能性がある。政治的、経済的圧力を前面に出し、軍事的圧力をちらつかせる現在のやり方から移行して軍事的圧力を最初から前面に出してくることが考えられる。

──今年5月、来日したバイデン氏は岸田文雄首相との共同記者会見で「あなたはウクライナ紛争に軍事的に関与したくなかった。同じ状況になったら台湾を守るために軍事的に関与する気はあるか」と問われ、「イエス」と即答した。台湾防衛を巡る「戦略的曖昧さ」を変更したとの見方も出ている。

ヘンダーソン 「戦略的曖昧さ」はまだ存在する。政策の変更ではなく、バイデン氏は既存の政策をより強化することを再表明しただけだ。私たちはウラジーミル・プーチン露大統領がウクライナに侵攻するのを抑止することができなかった。

私たちは中国の侵攻に備えなければならない。後で罰するのではなく、中国の侵攻を抑止することだ。台湾を侵略したら西側諸国は容赦しないことを明確にしなければならない。

──日本が現行憲法9条を改正して、もっとアメリカを支援できるようにすることに賛成か。

ヘンダーソン これは二国間の問題ではない。歴史の一コマになった日本国憲法を改正して日本を「普通の国」にしようというだけではなく、中国に対処するため日本はアメリカにとって、アメリカは日本にとって不可欠だ。それだけではなく、インド太平洋に共通する利益を強力にサポートするような形で憲法を改正するのは理に適っている。


【マシュー・ヘンダーソン氏】

専門分野は中国戦略、東アジア関係、安全保障におけるアングロサクソン系電子スパイ同盟「ファイブアイズ」の課題。国際安全保障を専門にする独立系コンサルタント。英外務省で30年近く外交官を務め、主に中国を担当。ケンブリッジ大学卒業後、オックスフォード大学で研究修士(いずれも中国研究)。ブリティッシュ・カウンシル奨学生として北京大学に留学。


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡りトランプ氏との会談求める

ワールド

タイ・カンボジア両軍、停戦へ向け協議開始 27日に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story