コラム

英元外交官が語る安倍氏のレガシー 「日本は彼のビジョンを前向きに引き継ぐべき」

2022年07月26日(火)18時27分
台湾の安倍氏献花台

安倍元首相の遺影に花を手向ける台湾の蔡英文総統(7月11日) Taiwan Presidential Office/Handout via REUTERS

<英シンクタンク研究員マシュー・ヘンダーソン氏は、「インド太平洋の利益をサポートする形で日本国憲法を改正するのは理に適っている」と語る>

[ロンドン発]参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相は「インド太平洋とクアッド(日米豪印)の父」とその死を悼む声が世界中に広がっている。ジョー・バイデン米大統領は「自由で開かれたインド太平洋という彼のビジョンは今後も受け継がれる」との声明を発表した。

地政学に着目する英シンクタンク「カウンシル・オン・ジオストラテジー」アソシエイト研究員で、英外交官として香港返還にも関わったマシュー・ヘンダーソン氏に安倍元首相の政治的レガシー(遺産)についてインタビューした。同氏は「安倍元首相の自由で開かれたインド太平洋というコンセプトは地政学のゲームを変えることになった」と評価している。

──安倍元首相の功績についてどう思うか。

マシュー・ヘンダーソン氏(以下、ヘンダーソン) 安倍元首相は日本の傑出したリーダーだ。国際社会で日本の地位を回復させた。日本が大国と関わることができるよう日本の発言力を構築した。最も明確なのは対米関係だ。クアッドを通じ、日本がこれまでとは全く異なる新しい方法で地政学上の空間に参入することを可能にした。

彼の自由で開かれたインド太平洋構想は地政学のゲームを変えることになった。この戦略概念は台頭する中国に対抗するため、ルールに基づく世界を強化し、受動的なアプローチを多国間のダイナミックなプロセスに移行させた。私は、創造的で戦略的な、国際社会のゲームを変える思想家だったと安倍元首相を評価している。

まさに自由で開かれたインド太平洋というコンセプトのもと自由民主主義諸国を一つにまとめるのに適した時期に現れた政治指導者だった。

220726kmr_alb02.JPG

マシュー・ヘンダーソン氏(筆者撮影)

──インド太平洋という概念にオーストラリアやアメリカも乗ってきた。その意義と重要性をどう見るか。

ヘンダーソン その重要性を認識しようとするすべての国に対し、政治・経済・軍事・安全保障のルールに基づく国際秩序を強化し、復活させるための枠組みを提供するものだ。これは統一され、統合されたビジョンだ。それによって政治・経済・軍事・安全保障を別々の流れとしてとらえてきた時代から卒業できる。

私たちが直面している中国の脅威はまさに統合された脅威だ。われわれも経済的な関係から、政治的、そして軍事、安全保障上の同盟関係に本質的に移行することが正しい。安倍元首相はまさにその土台を築いた。

──安倍元首相の死は地域に何か影響をもたらすか。

ヘンダーソン 彼のような偉大な政治指導者が突然いなくなるとショック、混乱、悲しみ、そして懸念が生じるのは当然だ。しかし、彼の勇気と死後も残されるビジョンのおかげで、彼の志はすでに受け継がれている。

安倍元首相はすでに直接的な政治指導者の役割から身を引いていた。しかしマドリードで開かれた先の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議、クアッドの会合など、彼のレガシーは前進を続け、確立されている。そのレガシーは今後も続くだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円半ば、連休終えて円反落

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、米金利低下を好感 ハイテク

ビジネス

英小売売上高、4月は前年比4.0%の大幅減 3月復

ワールド

豪中銀、インフレ予想を上方修正 25年半ばまで利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story