コラム

「2日で勝利」の見込み外れたプーチン、大苦戦の前線は「防御」に作戦変更

2022年03月25日(金)17時13分
親ロシア派兵士

ウクライナ南東部の都市マリウポリの親ロシア派兵士 Alexander Ermochenko-REUTERS

<当初の目論見が外れ、大いに苦戦中のロシア軍。それでも「勝利」を目指すプーチンの作戦はより危険で残酷になりかねない>

[ロンドン発]米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は23日、北大西洋条約機構(NATO)軍高官の話として、ロシア軍はウクライナ侵攻で7千〜1万5000人の死者を出し、作戦に参加した約19万人のうち最大で計4万人の死傷者、捕虜、行方不明者を出したと報じた。ロシア軍は装備の10%を失い、現在の作戦を維持するのは難しい状態だという。

米シンクタンク、戦争研究所(ISW)によると、ロシア軍は主要都市に対しロケット弾やミサイルによる砲撃や爆撃を強める一方で、前線では塹壕を掘り、地雷を埋設するなど、攻撃から防御に転じたとみられる報告が相次いでいる。攻勢を維持するため兵力を追加投入するも、限定的で、今後数週間から数カ月、攻撃の勢いを取り戻すのは困難と考えられている。

ロシア軍は2日に498人が死亡、1597人が負傷したと公式な推定値を発表して以来、犠牲者の数を全く更新していない。旧ソ連崩壊の原因となった1980年代のアフガニスタン侵攻では米軍の携帯式防空ミサイル、スティンガーを提供されたムジャヒディンの激しい抵抗にあい、約1万5千人のソ連兵が死亡、最終的に撤退に追い込まれた。

しかし、それは10年以上に及んだ戦闘の結果だった。

一方、ウクライナ軍参謀本部は23日、ロシア軍の死者は約1万5600人で、航空機101機、ヘリコプター124機、戦車517両、武装車両1578台、大砲システム267門、多連装ロケット砲80門を破壊したと発表した。かなり水増しされている可能性はあるものの、WSJ紙はここ数日でロシア軍は7千人の死者を出したという米政府関係者の推定を伝えている。

内部情報を暴露する「SVRの将軍」

ロシア軍の死者9861人、負傷者1万6153人──と露国防省発表として政権寄りの露タブロイド紙コムソモリスカヤ・プラウダ(電子版)が20日報じたが、すぐにウェブサイトから削除された。同紙は「ウェブサイトがハッキングされ、不正確な情報が掲載された」と釈明したが、ロシア軍の損害はもはや隠し切れないほど大きくなっているのかもしれない。

2020年9月に、暗号化メッセージアプリ「テレグラム」に「対外情報局(SVR)の将軍」という名のチャンネルが開設され、登録読者は26万人近くにのぼっている。チャンネル主宰者は海外で暮らすSVRの退役将官「ビクトール・ミハイロビッチ」とされ、信頼できる政府筋を情報源にしているという触れ込みだが、真相は分からない。

関係者とみられる人物が露当局に摘発されたあとも「内部情報」の暴露は続けられている。ウラジーミル・プーチン露大統領がウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認、平和維持のためロシア軍を派兵した翌日の2月22日、「SVRの将軍」は「これはウクライナを乗っ取るという大計画の第一歩だ」と投稿した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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