コラム

黒海で「航行の自由作戦」の英艦にロシア機が警告爆撃4発 ここはプーチン大統領の「レッドライン」

2021年06月24日(木)14時55分
ロシアの戦闘機が捉えた英駆逐艦ディフェンダー

ロシアの戦闘機が捉えた英駆逐艦ディフェンダー、ロシア軍が公開した映像 BBCNews/YouTube

[ロンドン発]ロシア国防省は23日、実効支配するウクライナ南部クリミア半島沖の領海(12マイル)を英海軍の駆逐艦ディフェンダーが「侵犯」したとして警告射撃と警告爆撃を繰り返し、同艦を退去させたと発表した。ディフェンダーに乗船していた英BBC放送の記者はロシア機20機以上と沿岸警備艇2隻が同艦を追尾したと艦上から生々しく伝えた。

BBC記者は「クリミア半島沖に接近した時、乗組員は配置につき、防空システムのミサイルが装填された」「航路を変えなければ発砲するという警告が無線から聞こえた」「沿岸警備艇のうち1隻はわずか100メートルの距離まで近づいた」と証言した。甲板からリポートしている時にもロシアの航空機が轟音を立てながら上空を通過した。


ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が親米英姿勢を強め、ロシアとの対立を一段と深める中、ウラジーミル・プーチン露大統領は今年3~4月、ウクライナ国境近くに10万人以上のロシア軍を結集させ、一時緊張が高まった。ウクライナが最も恐れるのはプーチン大統領が黒海を海上封鎖してしまうシナリオだ。

bbcmap.jpg
BBCが報じた現場周辺の地図  BBCNews/YouTube


イギリスは北大西洋条約機構(NATO)の作戦の一環として、南シナ海と同じ「航行の自由作戦」を黒海やクリミア半島沖で実施するため、英駆逐艦に英メディアを乗船させたと筆者はみている。現に英大衆紙デーリー・メールの記者も臨場感あふれるディフェンダー艦上ルポをリポートしてきている。

元ロシア連邦保安庁(FSB)幹部アレクサンダー・リトビネンコ氏(当時44歳)が2006年11月、ロンドンのホテルでお茶に放射性物質ポロニウム210を入れられ、毒殺された事件以降、英露関係は最悪だ。互いに領空や領海に接近し、相手の出方をうかがうのは日常茶飯事だが、今回のような射撃や爆撃での警告は極めて異例だと英紙ガーディアンは分析している。

赤外線捜索追尾システムでロックオン

ロシア国防省は駐モスクワ・イギリス大使館付き武官を呼んで説明を求める映像や、英海軍の駆逐艦ディフェンダーを空から赤外線捜索追尾システムでロックオンする映像をツイッターで公開した。ロックオンはいつでも攻撃できるという脅しである。情報戦(インフォーメーション戦争)も過熱している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story