コラム

黒海で「航行の自由作戦」の英艦にロシア機が警告爆撃4発 ここはプーチン大統領の「レッドライン」

2021年06月24日(木)14時55分

まずロシア国防省の発表を見ておこう。


・23日午前11時52分(現地時間)、英海軍の駆逐艦ディフェンダーがクリミア半島沖のロシア領海を侵犯

・午後零時6分、8分、ロシア連邦保安庁(FSB)の沿岸警備艇が2度にわたって警告射撃

・同19分、ロシアの長距離戦闘爆撃機スホイSu-24がディフェンダーの航路にOFAB-250 爆弾4発を投下

・同23分、ディフェンダーが領海の外に出る

これに対し、英国防省はツイッターで「駆逐艦ディフェンダーは警告射撃を受けていない。国際法に従ってウクライナ領海を無害通航した」「ロシアは黒海で軍事演習を行っており、それに関する事前警告を海の仲間に提供したとわれわれは理解している。ディフェンダーの航路に爆弾が投下されたとは認識していない」と説明した。

無害通航とは沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことを条件に事前通告なしで沿岸国の領海を通航すること。ディフェンダーはウクライナ南部のオデッサを出港し、クリミア半島沖を横切ってジョージアに向かっていた。イギリスとウクライナは共同で軍艦8隻を建造し、黒海に2つの海軍基地を建設する協定に署名したばかり。

NATOも6月28日~7月10日、黒海で毎年恒例の軍事演習シーブリーズをウクライナ海軍とともに実施する。水陸両用作戦、機動戦、潜水作戦、海上阻止作戦、防空、特殊作戦統合、対潜水艦戦、捜索救助作戦を行う予定で、アメリカなど32カ国、5千人、軍艦32隻、航空機40機、18の特殊作戦・潜水チームが参加する。

ロシア海軍の黒海艦隊は軍艦47隻、潜水艦7隻、兵員2万5千人とされる。米英やNATOが黒海でのプレゼンスを増すことにロシア海軍は神経を尖らせており、黒海艦隊を増強し、活動を活発化させている。

バイデン外交は自由と民主主義、人権で連帯

米英は中国だけでなく、ロシアに対しても「航行の自由作戦」を発動している。2020年11月には日本海で米海軍の駆逐艦ジョン・S・マケインがロシア領海を侵犯したとしてロシアの駆逐艦アドミラル・ビノグラドフが警告を発した。この時も、米海軍は「ジョン・S・マケインはいかなる国家の領海からも駆逐されていない」との声明を発表している。

ジョー・バイデン米大統領は自由と民主主義、人権を外交の軸に連帯を広げ、中国やロシアの横暴を抑えたいと考えている。ゼレンスキー大統領はロシアの脅威に対抗するためNATO加盟を求めているが、プーチン大統領は「ウクライナのNATO加盟は越えてはならない一線(レッドライン)だ」と明確なシグナルを西側に送ってきている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ハーバード大との和解示唆 来週中に

ワールド

トランプ米大統領、パウエルFRB議長の解任に再び言

ワールド

イランとイスラエル、再び互いを攻撃 米との対話不透

ワールド

米が防衛費3.5%要求、日本は2プラス2会合見送り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story