コラム

メーガンの「激白」にも英王室にも冷淡なイギリス人──君主制廃止論が再燃

2021年03月10日(水)18時20分

メーガン夫人とヘンリー公爵が昨年1月、王室離脱を宣言した時、英大衆紙はコーンウォール公爵領からの利益配分を含め7430万ポンド(約112億円)の収入が見込めると算盤を弾いたが、すでに2人はそれをはるかに上回る"戦果"をあげている。

コロナ危機でイギリスでは12万4797人が亡くなり、昨年の国内総生産(GDP)は約10%も縮小し、1709年に欧州を襲った大寒波以来の落ち込みとなった。今年末には失業者は220万人に達すると予測されている。

感染力が最大70%も強い英変異株の猛威で閉鎖に追い込まれた学校も3月8日に再開した。食品会社ケロッグの調査では、5校に1校が住民に無償で食料を配るフードバンクを設置。4分の1以上の学校が子供たちに朝食を提供した。また3分の1の教員が子供たちの家に食料を届けた。

メーガン夫人とヘンリー公爵の勘違い

イギリスの庶民からすればメーガン夫人は肌の色で差別されるマイノリティーではなく、紛れもない「特権階級」だ。

英世論がメーガン夫人とヘンリー公爵だけでなく、エリザベス女王やウィリアム王子、キャサリン妃にも厳しかったのは、コロナ危機という非常事態にもかかわらず、王室内のもめ事を外にまき散らしたからだ。

メーガン夫人は「アーチーが誕生する数カ月前に、アーチーが王子にはならず、したがって警護も受けられないと王室から告げられた時、ショックを受けた」と告白。「アーチーが生まれる時、肌の色がどれだけ濃くなるかについての懸念と会話がヘンリー公爵との間であった」と衝撃的な告発を行った。

当のヘンリー公爵は「それにはここで触れたくないが、私たちの子供がどのように見えるか、彼女が女優を続けるかもしれないので警護が受けられないというような会話があった」と言葉を濁した。

人種差別が君主制や王室の体質に根差しているとすれば看過できない。しかしアーチーちゃんもチャールズ皇太子が即位すれば王子の称号が与えられると王室のプロトコルは定めている。与える、与えないはエリザベス女王の恣意で決められるものではない。

しかもこれまで王子の称号をいらないと言ってきたのはメーガン夫人とヘンリー公爵ではなかったか。アーチーちゃんを身ごもっていたメーガン夫人に警護がつかなかったという主張にも首を傾げる。

ヘンリー公爵は「チャールズ皇太子とウィリアム王子は王室の生活に囚われている。彼らはそこから逃れることはできない。それに同情する」と述べ、父と兄を「教育しようとした」とまで言ってのけた。王位継承者に再教育が必要なら君主制の正当性は根底から崩れる。

エリザベス女王が94歳になり、チャールズ皇太子への王位継承が迫る王室は、米富豪ジェフリー・エプスタイン被告(勾留中に自殺)の未成年者性的搾取にアンドルー王子が関係していた疑惑もあるだけに、メーガン夫人の告発は致命的な打撃となった。

エリザベス女王を君主とする英連邦王国やイギリス国内の若者世代に王室廃止論が再燃する恐れが膨らんでいる。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、準備金目標範囲に低下と判断 短期債購入決定

ビジネス

利下げ巡りFRB内で温度差、経済リスク綿密に討議=

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ワールド

米下院特別委、中国軍の台湾周辺演習を非難 「意図的
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story