コラム

新型コロナ、封印された「第2波」 日本はいつになったら「失敗の本質」から学べるのか

2020年08月24日(月)10時30分

安倍首相は「失敗の本質」から何も学んでいない? Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<「日本政府は失敗を繰り返そうとしているように見える」と言う英専門家の鋭い指摘>

[ロンドン発]日本政府の有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(会長、尾身茂・地域医療機能推進機構理事長)が8月21日、「全国での感染拡大はピークに達し、一部の地域では新規感染者数が緩やかに減少し始めている」との見方を示した。

分科会メンバーの押谷仁東北大教授が発症日ベースで感染者の推移を分析した結果「7月27~29日ぐらいのところにピークがあるように見える」と報告した。分科会は7月下旬、新聞やTVで報道されている報告日(確定日)ベースより発症日ベースを重視する方針を打ち出していた。

コロナに感染、発症後にPCR検査を受けても確定診断が出るまでに時間がかかる。報告日ベースと発症日ベースでは流行曲線は異なり、発症日に切り替えるとカーブは前ずれする。集計にばらつきの出る報告日より発症日で対策を練った方が有効だからだ。

しかし8月19日、日本感染症学会の学術講演会で舘田一博理事長は「今まさに第2波の真っただ中にいる」と指摘した。

これに対して尾身氏は20日に登壇し「東京や沖縄、大阪などでは医療機関への負荷が大きい状況が続いているが、今の流行は全国的にはだいたいピークに達したというのが私たちの読みだ」と分科会の見方を強調していた。

押谷氏も「現在の流行ではある程度リスクを制御できているが、これをゼロにしようとすると社会・経済活動を著しく制限せざるを得ない。今後どこまでリスクを許容するか、社会的な合意を得るため真剣に考えていく必要がある」と2度目の緊急事態宣言に否定的な立場を示した。

西村担当相「第2波の定義があるわけではない」

海外から見ていて違和感を覚えるのは日本の流行曲線はどうみても2つの山を描いているのに、安倍政権が1つ目の山(第1波)より間違いなく大きな2つ目の山について「第2波」という言葉を意図的に避けていることだ。

nihonshinki.jpg

上のグラフでも報告日ベースで見た1日当たりの新規感染者数も減少に転じていることが分かる。

確かに「第2波の定義があるわけではない」(西村康稔経済再生担当相)とはいうものの、権力による"言葉のごまかし""コロナ隠し"という印象を持たれても仕方あるまい。分科会(科学)が権力(政治)と適切な距離を取れているのかという疑念も膨らんでくる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story