コラム

マクロンは「フランスのサッチャー」になれるか 鬼門の労働市場改革

2017年09月14日(木)13時45分

マクロンを批判するプラカード Masato Kimura

[パリ発]「マクロンは王様、フランス最後の絶対君主ルイ16世と同じ」「私はあなたの言う通り、怠け者よ」――エマニュエル・マクロン仏大統領(39)がフランス再建の目玉に掲げる労働市場改革に反対する全国一斉の抗議行動が9月12日、パリ、マルセイユ、トゥールーズ、ニースなどで行われ、大勢の労働者や市民が街頭に繰り出した。

KIM_9212 - コピー.JPG
パリでの抗議活動 Masato Kimura

フランス最大の影響力を持つ労組連合、フランス労働総同盟(CGT)が鉄道労働者、学生、公務員らに約4000のストライキと180の抗議行動を呼びかけた。パリでは50~80%の交通網が影響を受けた。格安航空のライアンエアーもフランスで離発着する110便を欠航にした。

【参考記事】フランス大統領選、勝者マクロンは頼りになるのか

仏内務省によると、デモ行進に参加したのは約22万3000人で、13人を逮捕。一方、CGTの発表では参加者は計約40万人。フランソワ・オランド前大統領が行った昨年の労働法改正に対する抗議活動はもっと大規模(警察発表で39万人)で、今回はストライキの広がりも限定的だった。

KIM_9119 - コピー.JPG
一部で発煙筒がたかれたが、平和なデモ行進が続いた Masato Kimura

パリでは、参加者の一部がスネにレガースを当て、発煙筒を配り、警戒の機動隊も万全の配置を整えていた。今日も荒れるのかと少し身構えたが、拍子抜けするほど平和なデモ行進が4時間も続いた。

【参考記事】トランプ、仏マクロン夫人に痴漢発言「肉体的に素晴らしい」

マクロンは自分の労働市場改革に反対する人たちを「怠け者、皮肉屋、過激派」と呼び、反感を買った。「私は怠け者です」と、マクロンの傲慢な物言いを批判するプラカードが目立ったのは、そのせいだ。

強硬な組合との対決はこれから

イギリスの首相マーガレット・サッチャーが騎馬警官隊まで繰り出し、政権をひっくり返すほど絶大な力を持っていた全国炭坑労働組合を粉砕したように、マクロンは強硬なCGTをねじ伏せて、労働市場改革を断行できるのか。第1ラウンドは双方、全面対決を避け、様子を見ているような印象を受けた。

フランス25歳未満の失業者数.png

上は欧州連合(EU)統計局のデータをもとに作成した若年労働者の失業率だ。日本やドイツ、イギリスに比べ、フランスは20%超と高止まりしたままだ。これがフランス経済の病巣を物語る。フランスでは既存労働者の権利が守られ過ぎているため、労働コストが高くなり、企業は新規採用に対して慎重になる。

マクロンは経済相だった2015年、いわゆる「マクロン法」をまとめ、日曜・深夜営業の拡大、長距離バス路線の開設自由化を認め、経済を活性化させた。しかし、左右両派から強い抵抗にあい、中道勢力を結集する運動「前進!」を立ち上げるきっかけとなった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story