コラム

高年齢者雇用安定法の改正と70歳現役時代の到来

2021年05月31日(月)15時10分
定年後も働く高齢者(イメージ)

高齢者は若者にない強みを発揮せよ SrdjanPav-iStock.

<定年後も70歳まで現役で働く時代がやってきた。雇用する側とされる側にはどんな準備が必要か>

2021年4月から「改正高年齢者雇用安定法1」が施行されることにより、70歳まで現役で働く「70歳現役時代」が到来することとなった。改正法の施行により企業は(1)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入、(2)70歳までの定年の引き上げ、(3)定年制の廃止、(4)70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ制度の導入、(5)70歳まで企業自らのほか、企業が委託や出資等する団体が行う社会貢献活動に従事できる制度の導入のうち、いずれかの措置を講じることが努力義務として追加された。

-----
1 高年齢者雇用安定法の正式名称は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」


「改正高年齢者雇用安定法」の期待される効果

政府が70歳雇用を推進するなど高年齢者の労働市場参加を奨励する政策を実施する主な理由は、(1)少子高齢化の進展による労働力不足に対応するとともに、(2)社会保障制度の持続可能性を拡大するためである。

厚生労働省が2021年2月に公表した「人口動態統計」の速報値によると、2020年に生まれた子供の数は前年比で2.9%減の87万2,683人にとどまり、過去最少を記録した。また、日本における2019年10月1日時点の生産年齢人口(15~64歳)は7507万2,000人で、1年前に比べ37万9,000人も減少した。全人口に占める15~64歳人口の割合は59.5%で、ピーク時の1993年(69.8%)以降、一貫して低下しており、今後もさらに低下することが予想されている。このように少子高齢化が進行し、生産年齢人口が減少している中で、70歳雇用が定着すると生産年齢人口の範囲が既存の15~64歳から15~70歳に拡大されることにより労働力不足の問題を解消することができる。また、企業にとっては高年齢者のノウハウや技能・技術をより長く活用し、若手への技術承継ができるというメリットも期待できる。

そして、70歳雇用の定着は社会保障の持続可能性を拡大する。特に、働くことで健康が維持できる高年齢者が増加すると、高齢化の進展とともに増え続けている医療や介護に関する政府の財政支出をある程度抑えることができる。実際、都道府県別の65歳以上就業率(2000年)と1人当たり後期高齢者医療費(2010年度)の関係をみた分析結果によると、高年齢者の就業率が高い都道府県ほど医療費が低くなる傾向があった。

高年齢者の労働市場参加の現状と今後の働き方

政府が高年齢者雇用促進政策を継続的に推進することにより、労働市場に参加する高年齢者は毎年増加している。2019年における60~64歳の就業率は70.3%で、7割以上の高年齢者が労働市場に参加していた。一方、65~69歳や70~74歳の就業率は2019年時点でそれぞれ48.4%と32.2%で60~64歳の就業率ほど高くはないものの毎年上昇傾向にある。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、「引き締め的な政策」望む

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story