コラム

コロナで拡大した格差をどう解消する? 韓国次期大統領候補たちの提案

2021年02月01日(月)14時43分

文在寅大統領が推進した「協力利益共有制」は、大企業と中小企業が事前に協定を結び、共同の努力により達成した収益を分かち合う制度である。第20代国会で与党の共に民主党が立法化を推進したものの、財界等の反対により実現できなかった。

一方、丁世均(チョン・セギュン)首相は「損失補償制度」の立法化を推進している。「損失補償制度」は、国からの営業制限措置に応じた自営業者の損失を国が補償することを法的に義務化する制度である。新型コロナウイルス感染症の経済対策として3度支給された「緊急災難支援金」が一時的な措置であるのに対して、「損失補償制度」は自営業者の損失補償を法的に義務化する点で大きな違いがある。

まだ具体的な内容は決まっていないものの、現段階では自営業者が損した売上金額の50%(一般業種)から最大70%(集合禁止対象業種)を国が保証する案が出ている。この案を実現するためには1カ月に約24.7兆ウォンが必要で、4カ月間実施した場合、約100兆ウォンという莫大な予算がかかると推計されている。

与党の次期大統領候補の新型コロナウイルス感染症に対する緊急経済対策案
kimchart3.png

利益共有制にはインセンティブ必要

文在寅大統領は1月27日の世界経済フォーラムのオンライン会合「ダボス・アジェンダ」での演説で、「政府の防疫措置により営業禁止または営業制限を受けている自営業者に対する『損失補償制度」と、新型コロナウイルス感染症により大きな収益を上げた企業が自発的に収益を共有することにより弱者を助ける代わりに収益を共有した企業に政府がインセンティブを提供する『利益共有制度」が国会で議論されている」とし、これらの制度は新しい感染症による災難を克服するための包容的な政策モデルになるだろうと説明した。

但し、上記の対策を実施するためには課題も多い。まず、李在明京畿道知事の「災難基本所得」や丁世均(チョン・セギュン)首相の「損失補償制度」を長期的に実施するためには莫大な財源が必要である。実現の前にその財源をどこから賄うかを緻密に検討する必要がある。

また、李洛淵代表の「コロナ利益共有制」は、企業が自発的に参加することを原則としているものの、多くのインセンティブがない限り、自発的に参加する企業は少ないだろう。政府が参加率を上げるために動き始めると、結果的には半強制的な政策になり企業の自由度を減らし、負担を増やす規制になる恐れがある。

導入に反対する団体等は、「憲法では、国民の財産権を保障している。従って、新型コロナウイルス感染症による企業の損失は企業の収益共有で解決すべきではなく、国が補償すべきである」と主張し、政府の責任を強調している。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story