コラム

リカレント教育が身を助ける

2020年11月02日(月)14時50分

日本における今までのリカレント教育は、主に「社会人学習」として実施されてきました。会社に通う社会人が大学の学部(通信制)、大学院、専修学校で学びたいことを学習するケースが多いものの、諸外国に比べると、日本のリカレント教育への参加者は低い水準に止まっています。例えば、2015年時点の「25歳以上の『学士』課程への入学者の割合」と「30歳以上の『修士』課程への入学者の割合」は、それぞれ2.5%と12.9%で、OECD平均16.6%と26.3%を大きく下回っています。さらに、日本では学ぶことへの意欲が年齢とともに弱まる傾向にある現状を考慮すると、中高年齢層に対するリカレント教育は十分に普及できていない可能性が高い状況です。

文部科学省が2018年に発表した「教育・生涯学習に関する世論調査」によると、「あなたは、学校を出て一度社会人となった後に、大学、大学院、短大、専門学校などの学校において学んだことがありますか」という質問に対して、「学習したことがある」と「学習してみたい」と回答した年齢代別割合の合計は、50代は40.2%、60代は34.5%、70歳は22.1%で、30代の51.9%と40代の46.0%を下回る結果が出ました。

kinchart201102.jpg

Q3.実際、リカレント教育はどのように実施されていますか?

日本社会が以上のような問題点を抱えている中で、一般社団法人定年後研究所では、中高年会社員に対して「リカレント(学び直し)」だけでなく、「フィールドワーク」を通じて、自分自身の定年後の「自走人生」探しに取り組むことを目的に、昨年12月から今年の2月に渡り、全国初の複合型リカレントプログラム「京都リカレントステイ」を企画・実施しました。このプログラムでは、現役の会社員も参加しやすいように週末や休日を中心に日程が編成され、佛教大学等での「座学」、古川町商店街、綿善旅館、京都移住計画での「フィールドワーク」 、そして参加者全員による「意見交換や発表会」などが行われました。プログラムが終わった後、参加者は、「勤務先の研修では得られない貴重な経験をした」、「他分野に従事している人とお話をすることにより勉強になった」、「地域の商店街を活性化させるための対策を考えるようになった」、「以前より、京都のことが分かり、親しみを感じるようになった」、「京都に移住することをまじめに考えることになった」と、リカレント教育に対する満足度を表しました。

政府は、少子高齢化の進展に伴う、公的年金基金の枯渇と労働力不足の問題を解決するために、定年延長を含めて高齢者が継続して働く環境を構築しようとしています。また、働き方改革を推進し副業・兼業の普及促進も図っています。政府の目標通り、人々がより長く働き、より多様な分野で働くためには、企業もOJTなどの教育訓練以外に、より多様な学び直しが経験できる機会を提供する必要があります。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story