コラム

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(4)軽症者の隔離・管理対策:「生活治療センター」

2020年05月11日(月)10時55分

日本でも現在アパホテル等を中心に軽症者を隔離・管理する場所が提供されている。日韓において軽症者を隔離・管理する施設の大きな違いは、日本の施設はホテルを中心に提供されていることに比べて、韓国の施設は国や企業の研修院等を中心に運営されたことである。また、日本では一部のホテルが有償で国や自治体に客室を提供(アパホテルは有償、楽天は無償)しているのに対し、韓国の施設は全ての施設を無償で提供している。

では、なぜ韓国政府はホテルではなく、国や民間の研修院を軽症者隔離施設として利用したのだろうか。その理由として韓国の場合、大邱という特定地域を中心に急激に感染が広がったことが挙げられる。つまり、感染者が一部の地域を中心に急増したので、ホテルと調整をする時間的な余裕がなく、すぐ利用できる国の施設を利用した可能性が高い。また、大邱・慶北地域の近くにある企業の研修院が続々と「生活治療センター」として提供されたのは、日本より行政の強制力が強いことが影響を与えたのかも知れない。

では、韓国の「生活治療センター」から日本が参考にできるものは何があるだろうか? まずは、政策決定から施設運営までのスピードの速さである。韓国の中央災難安全対策本部は3月1日に「生活治療センター」の運営を発表し、3月3日にはじめての「生活治療センター」である「大邱1(場所:中央教育研究院)」を稼働し始めた。そして、2週間も経たないうちに16カ所の「生活治療センター」が完全に稼働した。新しく建物を立てず、研修所等既存の施設を活用したのが有効であった(もちろん、病院として建てられた建物ではないので、陰圧設備や喚起設備が十分ではなく、患者を管理するには適切ではないなどの問題点も指摘された)。

2つ目は徹底的に役割分担を行ったことである。検体の採収や問診票のチェック、診療などは医療従事者が担当する代わりに、行政、防疫、食事等は医療従事者以外の公務員や軍人、警察などが担当し、医療従事者の負担を減らした。三番目は健康管理アプリケーション等を利用し、患者を中央状況室でモニタリングすることによって少ない医療従事者で多くの患者の管理できたこと、そして医療従事者の感染を防ぐことができたことである。

最後に「生活治療センター」の最も大きな効果は、軽症者を管理が可能な施設に隔離・管理し、治療が必要な重症者に優先的に病床を割り当てることで医療崩壊を防いだ点であるだろう。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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