コラム

韓国政府、新型コロナウイルス対策で手厚い弱者救済策

2020年03月06日(金)11時15分

感染者が集中している大邱などの「脆弱階層」にはマスクを無料配布する(3月5日、 大邱でマスクを買いに並ぶ列) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<自営業者や中小・零細企業、消費者を対象に約31.7兆ウォン(約2.9兆円)。フリーランスにも付加価値減税、超低利融資など>

韓国における新型コロナウイルスの感染者数が5千人を超えるなど感染拡大はまだ止まる気配がない。韓国政府は、2月23日に大邱を中心に新型ウイルスの感染者数が急増すると、4段階に分類される感染症に関する危機警戒レベルを「警戒」から最高レベルの「深刻」に引き上げた。危機警戒レベルが「深刻」になったのは2009年に新型インフルエンザが流行した以降11年ぶりのことである。韓国における3月4日0時時点の感染者数は5,328人で死亡者は32人まで増加した。

新型コロナウイルスの流行の長期化で、韓国経済も大きな打撃を受けている。株価は大きく下がり、ウォン売りも続いている。製造業の場合、中国からの部品が安定的に供給されないために生産計画に狂いが生じており、観光客の急減で旅行業界の被害も拡大している。また、感染を恐れて外食や商店街など人が集まる場所への外出が減り、民間消費も大きく萎縮している。

特に、韓国では就業者に占める自営業者(特に零細自営業者)の割合が高く、新型コロナウイルスによる民間消費の減少が自営業者に与える影響は他の国に比べて大きい。OECD Dataに公表されている韓国における自営業者の割合は2018年時点に25.8%で、OECD加盟国の中ではギリシャ(33.5%)、トルコ(32.0%)、メキシコ(31.6%)、チリ(27.1%)に次いで5番目に高く、日本の10.3%を大きく上回る。

oecdchart.png
出所)OECDホームページ「Self-employment rate」

また、多くの中小企業も被害を受けている。2月27日に中小企業中央会が中小企業300社を対象に実施した調査結果によると、70.3%の企業が新型コロナウイルスにより直接的あるいは間接的に被害を受けていると答えた。被害類型別には「中国工場の稼働中断により納品が延期された」が51.6%で最も高く、「中国訪問機会の縮小により営業活動に狂いが生じた」(40.1%)、「輸出展示会の取り消しにより受注機会が縮小した」(32.3%)と続いた。中国からの原材料や副材料の供給が中断・遅延された上に価格が上昇したことが、中小企業の経営にマイナスの影響を与えている。

自営業者から高齢者まで

韓国政府は2月28日に、新型コロナウイルスの感染拡大により被害を受けた中小企業などを支援し、個人消費を刺激するために、総額16兆ウォン規模の景気対策を実施すると発表した。16兆ウォンは、韓国政府が新型コロナウイルス対策のために投入するとすでに発表した4兆ウォンに加えて支出される予定であり、景気対策の規模は2015年に中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)が発生した時の約10兆ウォンを大きく上回る。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、豪首相への攻撃強める ユダヤ人団体は

ビジネス

日産本社ビル売却先で米KKRが最有力候補、900億

ワールド

インド総合PMI、8月は65.2に急上昇 企業が大

ワールド

インドネシア経常赤字、第2四半期は30億ドルに拡大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story