コラム

『長生きできる町』から健康寿命を考える

2020年02月13日(木)16時45分

健康寿命の格差は子どもの段階から始まっている TAGSTOCK1-iStock.

<平均寿命の上昇と共に健康寿命への関心が高まっているが、健康寿命にも所得や学歴、環境による格差があることをご存じだろうか。幸いその格差は、政府や自治体の取り組み次第で縮小できる>

健康寿命に関する関心が高まる

nagaiki_book.jpg最近、平均寿命の上昇と共に健康寿命に関する関心も高まっている。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間として定義されており、文字通り健康でいられる寿命のことである。そこで、本稿では2018年10月に出版された『長生きできる町』(近藤克則著、角川新書)の内容を中心に健康寿命について考察したい。

本書は現代社会における健康寿命の格差拡大に着目し、その現状や課題を様々な視点から分析しつつ、格差を是正するために取り組むべきことについて書している。厚生労働省の調査結果によると、2016年時点の健康寿命は、男性の場合は山梨県(73.21歳)が、女性の場合は愛知県(76.32歳)が最も高く、男性最下位の秋田(70.46歳)と女性最下位の広島(73.62歳)とそれぞれ2.75歳と2.7歳の差があることが明らかになった。さらに、男女1位の山梨県と愛知県は2010年と2016年の6年間でそれぞれ2.01歳と1.39歳ずつ健康寿命が伸びているのに対して、男女最下位の秋田県と広島県はそれぞれ0.75歳と1.13歳ずつ健康寿命が伸びず地域間における健康寿命の格差が広がっている。著者は、いくつかでのデータを用いて都市部で暮らすほど認知症リスクが低く、低学歴・低所得者ほど死亡・介護リスクが高いと説明している。

■健康寿命都道府県別ランキング(男女別上位5位)

chart11.jpg

厚生労働省は、栄養、運動、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣、経済的余裕、気候、社会参加や地域のつながり有無などを健康寿命に影響を与える要素として挙げている。本書では健康寿命向上の成功事例として東京23区のなかでも所得が相対的に低い足立区を紹介している。

足立区における健康寿命は2010年時点で東京都の平均よりも約2歳短かかったものの、区が糖尿病をはじめとする生活習慣病への対策として、区民が野菜を手軽に食べられる環境を整えた結果、2015年には東京都の平均との差が男性は1.66歳、そして女性は1.25歳まで縮まった。著者は、「健康格差は実在するものの、取り組みによってその格差を縮小することが出来るので、まずは健康格差の存在を認識することが重要である。但し、健康格差は把握することが難しく、そのまま放置すると格差は広がる」と注意を呼び掛けている。

chart2.jpg

子どもの段階で生じている健康格差

また、本書では健康格差がすでに子どもの段階で生じている可能性があることを4つの視点──1)胎児期の体重の影響、2)子ども時代の貧困の影響、3)経験の積み重ねの影響、4)教育以外にできることとやるべきことの影響──から説明している。各視点の例を整理すると次の通りである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハマスに60日間のガザ停戦「最終提案」

ビジネス

米ハーシー、菓子の合成着色料を27年末までに使用停

ビジネス

メキシコへの送金額、5月は前年比-4.6% 2カ月

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、ハイテク株安やトランプ関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story