コラム

一人当たりGDPが増えても普通の韓国人が豊かになれない理由

2020年01月08日(水)17時30分
一人当たりGDPが増えても普通の韓国人が豊かになれない理由

求人情報を眺める男性2人(2017年4月12日、ソウルで開催された求職イベントにて) Kim Hong-Ji-REUTERS

<一人当たりGDPは先進国の目安となる3万ドルを突破した韓国だが、豊かさの実感はなく幸福度も高くない。潤っているのは財閥グループや高所得層だけで、一般の労働者はむしろ貧しくなっている>

韓国における2018年の一人当たりGDP(国内総生産:国内で1年間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額を人口で割ったもの)は31,370ドルと、ようやく3万ドルの壁を超えた。朝鮮戦争が終わった時点の1953年の一人当たりGDPが66ドルであったことに比べると目覚ましい成長であり、2006年に一人当たりGDPが2万ドルを超えてからわずか12年での成果である。一方、2018年の一人当たりGNI(国民総所得=国民が国内外から1年間に得た所得の合計額を人口で割ったもの)も31,349ドルに達している(出所:韓国統計庁ホームページ「Main Annual Indications(Bank of Korea, National Accounts」)。一人当たりGDPや一人当たりGNI3万ドルは一般的に先進国入りの基準として認識されてきたので、韓国はようやく先進国の仲間入りを果たしたといえるだろう。しかしながら、なぜか国民は所得増加をあまり実感していない。

その理由の一つとしてGDPの中には家計の所得だけではなく、企業や政府の所得も含まれている点が挙げられる。つまり、GDPから政府や企業の所得を引いて、税金や社会保険料などの支出を除いた総所得を人口で割った1人あたりの家計総可処分所得(PGDI:Personal Gross Disposable Income)の1人あたりGDPに対する比率は2017年現在55.7%で、2016年の56.2%より低下している。また、GDPの増加率が2000年から2017年の間に172%であったことに比べて、1人あたりの家計総可処分所得の増加率は122%でGDPの増加率を下回っている。GDPの中で家計の所得が占める割合が高くないのが1人あたりGDPが増加しても、国民が所得増加を実感しにくい一つの理由になっていると考えられる。

一方、韓国経済は貿易への依存度が高く、輸出額に占める大企業の割合が高いことも一般国民が所得の増加を実感できない一つの理由ではないかと思われる。例えば、2017年の対GDP比貿易依存度は68.8%で、日本の28.1%を大きく上回っている。さらに、企業数では0.9%に過ぎない大企業の輸出額が輸出総額に占める割合は66.3%(2017年)に達している。大企業で働いている労働者は輸出増加により企業の利益が増えると、成果給が支給されるので、景気回復を実感しやすいものの、輸出に占める割合が低い中小企業に従事している労働者は所得の増加を体験する可能性が低い。このような点を含めて、現在韓国社会は二極化が進んでいる。

プロフィール

金 明中(ニッセイ基礎研究所)

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。

ニュース速報

ワールド

東京都の新規感染者110人以上、初の3桁=国内メデ

ワールド

南アジア、新型コロナ感染者6000人に迫る インド

ワールド

韓国、「社会的距離」強化を2週間延長 感染ペース5

ワールド

中国、新型コロナの死者追悼 「清明節」に黙とうと警

MAGAZINE

特集:コロナ危機後の世界経済

2020-4・ 7号(3/31発売)

感染拡大で経済先進国の序列と秩序はこう変わる── コロナ後の「ニュー・エコノミー」を識者が徹底解説

人気ランキング

  • 1

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 2

    台湾人だけが知る、志村けんが台湾に愛された深い理由

  • 3

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 4

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロ…

  • 5

    新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(4…

  • 6

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 7

    「アビガン」は世界を救う新型コロナウイルス治療薬と…

  • 8

    新型コロナで都市封鎖しないスウェーデンに、感染爆…

  • 9

    新型コロナに「脳が壊死」する合併症の可能性

  • 10

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけで…

  • 1

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援

  • 2

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 3

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロナウイルス拡大防止に

  • 4

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 5

    ブラジル大統領ロックダウンを拒否「どうせ誰もがい…

  • 6

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を…

  • 7

    「緊急事態宣言、4月1日に出すという事実ない」 菅官…

  • 8

    新型コロナ、若者ばかりが責められて「中高年」の問…

  • 9

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 10

    コロナ禍のアメリカでひよこがバカ売れ

  • 1

    一斉休校でわかった日本人のレベルの低さ

  • 2

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 3

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援

  • 4

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 5

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロ…

  • 6

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 7

    韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか

  • 8

    フランスから見ると驚愕の域、日本の鉄道のあり得な…

  • 9

    新型コロナショック対策:消費税減税も現金給付も100…

  • 10

    ついに日本は終わった

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!