コラム

一人当たりGDPが増えても普通の韓国人が豊かになれない理由

2020年01月08日(水)17時30分

文在寅政権は、2017年の大統領選挙時に雇用創出や格差是正などの解決を公約として掲げて、最低賃金の大幅引き上げや残業を含む労働時間の上限を週68時間から52時間に短縮するなどの改革を実施した。しかしながら、あまりに急な改革は社会にひずみを生み、非熟練労働者が多い卸・小売業、飲食業、宿泊業の雇用量が減っている。2019年第3四半期の全体失業率と若者の失業率はそれぞれ3.3%と8.1%で、前年同期の3.8%と9.5%と比べて、少し改善されているものの、雇用の質は改善されていない。つまり、最近の失業率の低下は、政府の財政投入による公共事業や福祉、サービス業における高齢者の短期雇用の増加が、影響を与えている可能性が高い。実際、製造業や働き盛りの30~40代の雇用者数は、継続して減少している。

さらに、韓国統計庁が2019年10月29日に発表した「2019年経済活動人口調査勤労形態別付加調査」によると、2019年8月時点の非正規労働者の割合は、2007年3月(36.6%)以来の高い水準である36.4%にまで上昇していることが明らかになった(2018年8月は33.0%)。

雇用が減少し非正規労働者が増加すると、今後所得格差が広がる恐れがある。韓国統計庁が11月21日に発表した「2019年第3四半期家計動向調査」によると、所得が最も低い所得下位20%世帯(第I階級)の「1カ月平均所得」は、政府等からの移転所得が増加(対前年同四半期比11.4%増)したことにより、対前年同四半期に比べて4.3%も増加した。しかしながら、所得下位20%世帯の「1か月平均勤労所得」は44.8万ウォンで、同期間に6.5%も減少している。一方、所得が最も高い所得上位20%世帯(第Ⅴ階級)の「1カ月平均勤労所得」は同期間に4.4%増加している。政府からの移転所得がなかったら所得格差はさらに広がったと考えられる。

また、2019年2月26日に経済正義実践市民連合(以下、経実連)が発表した調査結果によると、サムスン、現代自動車、SK、LG、ロッテという、いわゆる5大財閥グループ(以下、5大グループ)の土地の帳簿価格(会計上で記録された資産や負債の評価額)は2007年の23.9兆ウォンから2017年には67.5兆ウォンへ、43.6兆ウォンも増加していることが明らかになった。5大グループが保有している土地資産の帳簿価格は10年間に2.8倍も上昇し、同期間における売上高の増加倍数2.1倍を上回っている。物価上昇等を反映した公示地価と実際の取引価格が帳簿価格を大きく上回っていることを考慮すると、土地の取得により企業が得られる利益はさらに大きいと考えられる。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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