コラム

なぜ、韓国政府はGSOMIAを破棄したのだろうか?

2019年08月27日(火)17時50分

GSOMIA破棄の背景にある4つの理由

文在寅政府が日本とのGSOMIAを破棄した背景には、主に4つの理由が存在していると考えられる。

(1) ホワイト国の除外により高まった国民の危機意識への対応

まず、一番目の理由としては、日本政府が韓国をホワイト国から除外したことが挙げられる。8月22日に韓国大統領府の金有根・国家安保室第1次長は、「日本政府が貿易管理上の優遇対象国(ホワイト国)から韓国を除外したことにより、両国間の安保協力環境に重大な変化を招いた。このような状況の下では安全保障上で敏感な軍事情報交流を目的に締結した協定を持続させるのは国益に合致しないと判断した」とGSOMIAを破棄する理由を述べた。

韓国経済は日本とは異なり、貿易や大企業に対する依存度が高い。韓国の対GDPの貿易依存度は2017年で68.8%と、日本(28.1%)の2倍以上である。特に、総輸出金額のうち半導体が占める割合は2018年時点で20.9%と最も高く、2位の石油製品の7.7%を大きく上回っている。従って、日本政府が行った半導体材料の韓国への輸出優遇措置の見直しを含めた一連の措置は、輸出依存度が高い韓国経済に大きなダメージを与えることになるだろう1。

韓国国民の間では日本政府が韓国をホワイト国から除外したことにより、韓国経済がさらに減速し、現在より経済状況が悪化するのではないかという懸念が広がった。また、日本政府の規制の見直しが発表される前までは韓国企業の日本企業に対する依存度の高さがここまで深刻な状況であることが、韓国国内では一般的に知られていなかった。

マスコミなどにより事実が明らかになると、このままだと将来、韓国が日本の経済植民地になる可能性が高いという危機意識が広がり、市民団体を中心とした不買運動に繋がることになった。

民間調査によると7月31日現在日本製品の不買運動に参加している人は64.4%にのぼる。7月10日の一次調査の48.0%に比べて16.4%も高い数値である。さらに、反日感情が広がったことが影響なのか、7月31日に行われた世論調査では、GSOMIAの破棄に賛成する人が47.0%で、反対の41.6%を少し上回ることになった。このような世論調査の結果は、文在寅政府が日本とのGSOMIAを破棄することを決定するのに影響を与えただろう。

――――――――
1 金 明中(2019)「日韓対立の影響は?韓国経済に打撃大きく、日本経済にもマイナス 日韓関係の回復を強く望む」ニューズウィーク 韓国を読み解く2019年8月26日から引用

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story