コラム

日本だけ給料が上がらない謎...「内部留保」でも「デフレ」でもない本当の元凶

2022年04月01日(金)17時30分

図3のグラフ<参考:日米の企業売上高の推移>は日本とアメリカの企業全体の売上高の推移を示したグラフである(80年を100としたときの相対値)。アメリカ企業はリーマン・ショックなどの例外を除けば、基本的にほぼ毎年、売上高を拡大しており、過去40年間でアメリカ企業の売上高は7倍近くに増えた。

売上総利益率(売上高に対する売上総利益の割合)は大きく変わらないので、売上高の絶対値が増えれば、その分だけ付加価値の絶対額も大きくなり、賃金を捻出する原資が増える。一方、日本は90年代以降、むしろ売上高を減らしている。売上高が増えていない以上、仕入れ価格を極端に下げるか、販売価格を引き上げない限り、付加価値は増えない。

では価格の推移はどうだろうか。経済圏全体で販売されている全ての製品価格を調べることは不可能だが、輸出に関しては統計的に価格の推移を追うことができる。日本の輸出品目の価格は80年を境に一貫して低下が続いている。国内でもファストフード・チェーンが過度な低価格競争を繰り返してきたことは多くの人が理解しているだろう。

結局のところ、日本企業は売上高を拡大することができず、価格を引き上げることもできていないという状況であり、これが低賃金の元凶となっている。売上高も価格も変えられないということは、企業の競争力そのものに問題があるとの結論にならざるを得ない。

なぜ日本企業の国際競争力は低いのか

では日本企業の競争力はなぜ諸外国と比較して低く推移しているのだろうか。国により主力となる産業は異なるのでタイプ別に考えてみたい。

昭和の時代まで、日本は輸出主導で経済を成長させてきた。輸出主導型経済において成長のカギを握るのは、輸出産業の設備投資である。海外の需要が拡大すると輸出産業は増産に対応するため工場などに設備投資を行い、これが国内所得を増やし、消費拡大の呼び水となる。

一方、アメリカのような消費主導型経済の場合、成長のエンジンとなるのは国内消費そのものである。消費が拡大すると、国内企業が商業施設などへの設備投資を増やし、これが所得を増やして消費を拡大させるという好循環が成立する。

GDPの支出面における比率を見ると、アメリカは個人消費が67.9%もあるが、日本は55.4%となっており、日本はアメリカと比較して消費の割合が低い。だが、ドイツやスウェーデン、韓国など、日本よりもさらに消費の割合が低い国はたくさんある。ドイツは今も昔も製造業大国であり、輸出産業の設備投資が経済に大きな影響を与えている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、金利の選択肢をオープンに=仏中銀総裁

ワールド

ロシア、東部2都市でウクライナ軍包囲と主張 降伏呼

ビジネス

「ウゴービ」のノボノルディスク、通期予想を再び下方

ビジネス

英サービスPMI、10月改定値は52.3 インフレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story