『海と日傘』主演の大野拓朗が語る作品の「日本らしさ」と「観客の想像力にゆだねる」ということ

9月からロンドンに拠点を移す予定の大野は、日本の文化を体現できるような役者になりたいと話す MIYOKO FUKUSHIMA-NEWSWEEK JAPAN
<7年ぶりに出演するストレートプレイは、夏の長崎を舞台に一組の夫婦の日常を静かに描く名作>
生まれることも
死ぬことも
人間への何かの遠い復讐かも知れない
確かに、それゆえ、男と女は
その復讐が永続するための
一組の罠というほかない
――『海と日傘』前書き
劇作家・演出家の松田正隆による『海と日傘』は96年に岸田國士戯曲賞を受賞し、日本戯曲として初めて韓国の東亜日報演劇賞も受賞した名作。さまざまな劇団が上演してきた本作が大野拓朗と南沢奈央を主演に迎え、7月9日~21日にすみだパークシアター倉で上演される(演出は桐山知也)。
舞台は長崎、暑い夏の日。教師で作家の夫・佐伯洋次と余命3カ月を宣告された妻・直子の日常を淡々と描く。「語られない言葉」の奥にさまざまな感情を想起させ、「行間を読む」ことや「間(ま)」が重要な作品でもある。
7年ぶりにストレートプレイに挑戦する主演の大野に、本誌・大橋希が話を聞いた。
――今回はオファーがあって出演を決めたのでしょうか?
そうですね、オファーをいただきました。
2019年にニューヨークに留学してからずっと、海外での活動を目標に勉強を続けてきました。留学から帰国後はミュージカルに出演させていただくことも多く、23年11月~24年2月にはロンドンで全編英語のミュージカル『太平洋序曲(Pacific Overtures)』に出演する素敵な機会をいただいた。そこでさらに海外に行きたい気持ちが大きくなりましたね。
『太平洋序曲』は70年代にブロードウェイで初演された、アジア系の役者がそろった作品です。(幕末の日本が舞台で)侍が登場しますが、やはり日本の文化を体現するには日本人(の俳優)がいいということにあらためて気付きました。
『海と日傘』は静かで、日本らしい「間(ま)」のあるお芝居です。日本人としての誇りを持って、海外に挑戦していきたい自分としてはぜひ出演したい作品でした。
海外での上演も目指しているそうなので、日本の文化を海外に広めていく一つの例にできたらいいなと思っています。
――『太平洋序曲』についてのインタビューでは、英語で演じることの難しさを語っていました。今も英語の勉強は続けている?
はい、AIとよく喋っています(笑)。実は今年の9月を目標に、活動拠点をイギリスに完全に移そうと思っているんです。
――ロンドンで舞台に出演したことが大きかったのでしょうか。
大きかったですね。いつかアメリカに行こうと思って留学もしていたのですが、ロンドンの空気を知ってから、自分の芝居を伸ばしていく、しっかりお芝居を身に付けていくにはイギリスの方が合っているという感覚があって。
アメリカはどちらかというと、世界中の人たちに楽しんでもらえるエンターテインメント作品を生み出す力が強いと感じる。イギリスにはエンターテインメント系から社会派のものまで、いろいろなジャンルの大小さまざまな演劇があると思ったので、そこで一から修行し直したい、と。
最終的にはハリウッド映画に出るのが目標ですが、まずはイギリスで修行を積めたらいいなと思っています。