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『海と日傘』主演の大野拓朗が語る作品の「日本らしさ」と「観客の想像力にゆだねる」ということ

2025年7月5日(土)09時40分
大橋 希(本誌記者)

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大野にとって『海と日傘』は「研究しがいのある作品」 MIYOKO FUKUSHIMA-NEWSWEEK JAPAN

――『海と日傘』の魅力や演じてみて感じることは?

簡単な言葉で言ってしまうと、作家の松田正隆先生が天才だということを読めば読むほど感じていく作品です。


フルで上演しても90分ほどの短い戯曲で、一見すると平凡な日常を描いている。でもそれぞれの登場人物の心境にはかなり複雑なものがあって、それを表に出さないセリフ回しになっている。この人のこの発言はどういう意味なんだろう?と考えてみると、いろいろな解釈ができる作品ですね。

最近、立ち稽古に入ってすごく難しいことを考えていて、頭の中がごちゃごちゃしちゃっているんですけど......。

――難しいこととは?

「佐伯洋次はこう考えているから、こういう風に言うんだろうな」と思っていたけど、稽古場で別の人の思惑について聞くと、「そうか。それならもっとこうなるな。じゃあ、ここはどうなる......?」と自分一人では(演技を)決められない。どんどん深くに入っていくというか、いろいろな可能性を考えながら演じていく、そのごちゃごちゃしてくる感じですね。

あとは「はい」というセリフでも裏に3つぐらい意味があって、それをどのぐらい表に出すか、それを表に出したところでお客様にどう伝わるかも考えどころ。いろいろな解釈ができるので、人生経験によって見方や感じ方が変わると思う。こんなに研究しがいのある作品を読むのは初めてです。

松田正隆さんが書いた全てのセリフがすごく綺麗なので、「この言葉をちゃんと伝えよう」という思いもあります。ただ最終形態としては、役者自身は「こう考えて、こういう芝居をする」という自信を持ちつつ、それをなるべくそぎ落としてニュートラルに伝えられるようにしたい。舞台装置もほとんどなく、お客様の想像力を信じるような作品になると思います。

そういう意味では、例えば相手役がせりふを言っている時に「うんうん」というリアクションをどこまでやっていいのか、どこまで分かりやすく伝えていいのかも試行錯誤しています。やり過ぎると、想像力にゆだねる時にノイズになってしまうので。

――最近は舞台に軸足を移されているようですが、映画やテレビとは違う舞台の力を感じるきっかけになった作品はありますか?

一番記憶に残っているのは、ホリプロ在籍時代に勉強のために見に行った『ラ・カージュ・オ・フォール』というミュージカル。事務所の先輩である市村正親さんが主演でしたが、すごく楽しいシーンで涙が出てきたんです。

音楽の素晴らしさと出演者の歌の上手さに対する感動だったり、あとは劇場という空間でみんなで時間を共有する体験だったり......日常を忘れて、夢の世界に連れて行ってもらえる素晴らしい体験でした。

そこからミュージカルがすごく好きになり、いつか自分もやりたいと思って修行してミュージカルに出られるようになったんです。ドラマや映画と違って目の前にお客様がいて、その日その日でリアクションも違う。一発勝負なのでこちらの緊張感もすごい。そういう「嘘をつけない」感覚や、より「生きている」っていう感じがありますね。

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