『海と日傘』主演の大野拓朗が語る作品の「日本らしさ」と「観客の想像力にゆだねる」ということ
――自身の出演作で転換点になったものは?
いっぱいありますが、なかでも蜷川幸雄先生の『ヴェニスの商人』(2013年)に出演したことが役者として大きな転機でした。それまでは見よう見まねでお芝居や役作りをやっていましたが、『ヴェニスの商人』では蜷川組の先輩方に役作りや台本の「読解の仕方」を教えられ、蜷川さんにも厳しくしごかれ、お芝居が一気にうまくなった感覚が自分の中でありました。
舞台は僕にとって「修行の場」でもあります。1つのセリフ、1つのシーンを何百回、何千回と練習して、本番でも何十回と演じる。どんどん追求して、芝居の精度を高めていけるので。
――『海と日傘』は海外での上演を目指しているそうですが、日本らしい作品の受け入れられ方をどう想像していますか。
例えば「間(Ma)」という言葉もそうですが、最近は日本の文化や日本人に対するイメージが世界中の方々に、より強く根付いていると思います。アニメを始めとする文化が好きという方もすごく多い。
僕自身、ブロードウェイやウエストエンド(ロンドンの演劇の中心地)の作品や海外の映画ドラマを見るときに、文化の違いを面白がっているところもある。『海と日傘』も同じく、文化の違いを楽しんでもらえると思います。
一方で、これは夫婦の話であり、病気の妻への思いや関係性などに関しては海外でも同じように感じてもらえるはずです。
本当は英語で全編できたら、より面白いだろうとは思うんですけど。字幕が出ると、お芝居以上にそちらに目が行きがちなので、そこをうまく調整できたら素敵な試みになるんじゃないかな。
――イギリスに拠点を移す計画もそうですが、かなりの努力家では? 例えば昨年6月、アイスショー『氷艶2024』に急きょ代役で出演したときに短期間でスケートと演技と歌を仕上げたのは、かなり大変だったはずで......。
『氷艶』は髙橋大輔さんが主演で、荒川静香さんも出ていらした。僕、スポーツ選手を尊敬しているんです。スポーツ選手をサポートする仕事に就きたいと思って、大学はスポーツ学科に行った。メディカルトレーナーになろうと思っていたので、アスリートへの憧れがすごく強くて。
だから、髙橋さんの相手役として同じリンクの上に立ってお芝居と歌ができるのは「絶対に楽しいし幸せだ。一生の思い出になる」と思って出演を決めました。
オファーをいただいた際は、「滑れなくても大丈夫」と言われました。でも、素晴らしいスケーターの皆さんと一緒に滑りたいと思ったので一生懸命練習して。
努力家っていうことでもないですが、好きだからできるって感じですね。先ほどお話しした、ミュージカルをやりたいと思ってから5年間、仕事の際は自分の運転で移動していましたが、その道中は2時間、3時間毎日ずっと歌い続けていました。ただ歌が、ミュージカルが好きだったから。
スケートも楽しかったから、朝5時から練習して休憩中もずっと練習していました。
――ストレートプレイかつミニシアター系のような『海と日傘』も、ミュージカル『進撃の巨人』のようなエンタメ色の強い作品も、どれも演じていて楽しいですか。
楽しいですね。ミニシアター系のような作品は今回初めてなので、新鮮な体験です。でも稽古の間、ずっと声も張らずに話しているので、そうするとやっぱり歌いたいなぁって思ったりして。車の中で歌ったりしています(笑)。
おかげさまでいろいろな役を経験させてもらい、やっぱりどれも好きだから、これからも幅広く演じていきたいって思っています。

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